どんどんっとすごい勢いでドアを叩く音がする。
まったく、一体誰だと思いながらゾロはドアに近づいた。
声が聞こえる。
「あれ?なんで開かないの?鍵、壊れちゃった?
も〜〜〜、開いてよっ!お〜〜〜いっ!」
と、繰り返す声は、隣の住人たしぎだった。
部屋間違えてるっ!
ゾロは、慌てて玄関のドアを開ける。
こんな夜中に、いい近所迷惑だ。
「部屋間違えてますよっ!」
そこには、髪を振り乱したたしぎが立っている。
うわ、酔っ払ってる!
たしぎは、ゾロの姿を見るなり、
「あ〜〜〜〜っ!なんで、ロロノアが部屋にいるんですか?」
「ここ、オレの部屋なんですけど・・・」
もっともなゾロの言い分は、たしぎには届いていない。
「へへ・・・またぁ・・・冗談言って・・・へへへ。」
駄目だ。目が据わってる。
たしぎの部屋まで、連れて行こうとゾロがサンダルを履きかけると、
急にたしぎが、ウッと口を押さえて、バタバタと部屋に上がり込み、
トイレに駆け込んだ。
そりゃ、間取りは同じだから、わかるだろうけど。
暫くして、水の流れる音と共に、たしぎが出てきた。
まだ、目は虚ろだ。
呆気にとられ、玄関を開けたまま、サンダル履きで突っ立ってるゾロの姿を認識する。
「どうしたんですか?こんな夜中に。大丈夫ですよ、私は。
あ〜〜、どうぞ、上がってください。」
いかん、完全に状況を勘違いしている。
ドアを閉め、訂正すべく、どんどん部屋の奥へ進むたしぎの後を追う。
二間ある部屋の、居間の真ん中で、どさっとバッグとジャケットを下に落とす。
後ろから様子を伺っていると、ブラウスのボタンを外し始めた。
「ちょっ、ちょっと、何やってんすか!」
「ん?・・・お風呂。」
やめてくれ。止める代わりにゾロは息を呑んだ。
顔を合わせれば、世間話するぐらいのお隣さんが、自分の部屋で、服を脱いでいる。
そりゃ、少しは気になる存在ではあったが、一体オレはどうすりゃいいんだ。
途方に暮れて、言葉も発することができないゾロに構わず、
たしぎは、ブラウス、パンツ、ストッキングと、一つずつ着ているものを落としながら
風呂場へ向かう。
ガチャと扉が閉まる音がして、水音が聞こえはじめた。
ゾロは、ふぅ〜〜〜と大きく息を吐いた。
いやな予感がする。
このまま素っ裸で、出てこられたらたまったもんじゃない。
とりあえず、着替えになりそうな大きめのTシャツを出してきて、タオルと共に風呂場の前に置く。
いきなり、中でガッターンと大きな音が響く。
たしぎが中でひっくり返った様だ。
「おいっ、大丈夫か?」驚いて声を掛けると、
中から「だっ、大丈夫ですっ!だ、だいじょう・・・ぶ、は、はは。」
と力ない声は聞こえてきた。
カチャとドアが開いて、たしぎが風呂から出た気配がした。
衣擦れの音で、着替えているのがわかる。
さっきから、映っているテレビの深夜番組は、耳に入ってこない。
たしぎがゾロの後側にストンと座る。
遠慮がちに、後ろを振り返ると、ゾロが用意したTシャツを着ていた。
相当大きかったのか、ずり落ちて左肩が大きく見えている。
下を向いて、顔を合わせようとしない。
「ここ、オレの部屋なんすけど、気づいてるか?」
「・・・・」
答える気配はない。
「ロロノア、水飲みたい。」
まだ、気分が悪いのかと、しぶしぶ立ち上がって冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して
たしぎに手渡す。
「あ、ありがと。」
ごくごくと喉を鳴らして、勢いよく飲む。
こぼれた水滴が、首筋を伝う様に目が離せなくなった。
おそらく何も着けていないTシャツの下が、気になって、一言も発せられないでいた。
「ふぅ、おいし。」
そして、へへへと笑うと、「寝る。」と這うように、もう一間に敷いてあるゾロの布団に向い、
そのままダイブするように、潜り込んだ。
ゾロは、嵐のような出来ごとに、なすすべもなく座っていた。
*******
空が白んできた。
布団から這い出でる人影がある。
音をたてないように、壁によりかかり腕組みしたまま、目を瞑っているゾロの前をよこ切ろうとした。
「目、覚めたか?」
ぎょっとして、固まったのは、この状況の原因の元凶、たしぎだった。
「は、ははは・・・」思わず照れ笑いをする。
「人をからかいやがって!気づいてたろ!」
固まったまま、こくりと頷く。
「いつからだ?」
「シャワー浴びてたとき・・・気がつきました・・・」ほとんど消え入りそうな声で答える。
あの派手にひっくり返った時だな。
「ふ〜〜〜〜ん。」じろりと睨む。
「オレは、おまえのせいで、一睡もできなかったんだぞ!」
ゾロは、肩をつかんで、そのまま押し倒す。
昨日の件は、これでチャラにしてやる。
たしぎの唇に、思い切り自分の唇を押し付ける。
「んっ、ん〜〜。」
勝ち誇った顔のゾロを、たしぎはじっと見つめる。
その瞳に、ゾロは次第に余裕をなくしていく。
「なんだよ。キスされていいのかよ!」
真っ赤になりながら、怒ったように、たしぎを責める。
たしぎは、その様子をじっと見つたまま、
くすっと笑みを漏らすと、黙ってゾロの首に腕をまわした。
〈完〉
ヒナタビッチさんから頂いたリクエスト
「飲み会の帰りに、酔っ払って間違えてゾロの所に来てしまった、たしぎ。」
初挑戦のパラレル。楽しかったです。感謝!