「あなたばかりが、強くなったなんて
思わないで下さい。」
二年ぶりに顔を合わせたというのに、
いきなり勝負です!と刀を抜いて飛びかかってきた。
再会の余韻もへったくれもありゃしない。
ゾロは、たしぎの刀を受けつつ、苦笑した。
「私だって、何もしないで、
この二年を過ごしてきたんじゃありません!」
ゾロを真っ直ぐに睨みつつ、合わせた時雨に力を込める。
その想いが、刀から伝わってくるようだ。
「ああ、そうみたいだな。」
ゾロは、自分が笑っているのに気づいた。
ぐっと秋水で押し返すと、そのままたしぎの身体ごと
吹っ飛ばす。
飛び退くと同時に、時雨が振り下ろされる。
ガキン。火花を散らして剣が舞う。
会話もない。息づかいだけが二人を包み込む。
たしぎの瞳は真っ直ぐにゾロを捉えて揺るがない。
ゾロは、その視線が心地良いと思った。
たしぎの視線が、ゾロの左目の傷で止まる。
一瞬だけ、瞳の奥が揺らいだように見えた。
ゾロの動きが止まる。
何を想う?
「あなたを捕まえるのは、この私です。
だから、勝手に姿を消したら許しませんから・・・
もう、二度と。」
たしぎは、絞りだすように、そう告げると時雨を収め、
くるりと背をむけて、振り返りもせずに行ってしまった。
何だよ。
勝負はまだ、ついてねぇだろ。
ゾロはその場に突っ立ったまま、
小さくなっていくたしぎの後ろ姿を、ただ眺めていた。
強くなった。
お前の望みだった筈だ。
だが、オレは、その瞳の向こう側を知りたい。
お前が何に笑い、何に怒るのか。
理由なんか解らねぇ。
叶わねぇ事なのか?
冷たい風が、ゾロの想いを乱していく。
小さく舌打ちをして、刀を鞘に収めると、
ゆっくりと歩きだした。
何が自分を苛つかせるのか、解らないまま。
〈完〉
女らしくなったたしぎを見て、ゾロはぜってぇ、惚れ直すってばっ!!!