本当によかった。
たしぎはタンカーの上でやっと安堵した。
これで子供達を送っていくことができる。
船内で、トラファルガー・ローが体内の薬物を
出来る限り取り除いてくれた。
麦わらの船医チョッパーが、今、一番重症のモチャを診ている。
治療を終えた子供達から順に、名前と住んでいた島を聞き
リストにまとめ終えたところだった。
もし、麦わら達がいなかったら、
子供達の存在すらも、私達にはわからなかったかもしれない。
だから、せめてあの子達を無事に親元へ送り届けたい。
麦わらの航海士ナミは、快く任せてくれた。
信用してくれてありがたかった。
海兵が海賊にありがたいなんて思っちゃいけないだろうけど。
私を見つめるナミの眼差しは、どこか優しく、
たしぎは、嬉しかった。
岸壁が何やら騒がしい。
船から見下ろせば、大きな鍋に皆行列を作って並んでいる。
黒足のサンジはコックで、食欲を刺激する匂いがこちらまで漂ってくる。
「ねぇ、海軍のおねえちゃん!お腹すいた!」
「すごくいいにおい!」
「ね、食べていいんでしょ!行こう!」
子供達に促されて、一緒に船を降りる。
G-5達も、タンカーから酒やジュースをせっせと運び出していた。
何が始まるのかと思えば、
麦わらの「宴だ〜〜〜!!!」
という号令とともに、海軍、麦わら、パンクハザードの兵士達も
入り乱れての大宴会が始まった。
笑い声に包まれ、美味しい食事を食べていると
なんだか不思議な気がした。
さっきまで、命がけで逃げ出してきたパンクハザードで
こんなふうに敵、味方関係なく一緒に、笑いあっているなんて。
少し離れた所で、スモーカーとローが並んで座り、
話をしているのが見えた。
結局、ローは私達を倒さずに、ガスから逃れる道を教え、
助ける結果となった。
ヴェルゴの正体を教えてくれたのもローだ。
なにが正しいのか、時々わからなくなる。
明日はまた敵同士でも、今ここで
笑いあえればいいのだろうか。
「ね、おかわりしてきてもいい?」
幼い女の子がたしぎのコートの裾を引っ張る。
「ええ、もちろん!」
たしぎは慌てて返事をした。
「おねえちゃんも一緒に来て!」
頷くと、立ち上がって一緒に、大鍋でスープを振舞うサンジの元へ行く。
「いくらでもあるから、腹いっぱい食べろよ!」
声を掛けるサンジも、嬉しそうだ。
料理を夢中で運ぶ子供たちを眺めながら、たしぎは改めてサンジに向き直る。
「あ、あの、ありがとうございました・・・いろいろと。」
「なになに?お礼なんていいんだよ!たしぎちゃん!
俺はキミの役にたてただけで、嬉しいんだよ〜!」
満面の笑みで答えるサンジにつられて、たしぎも笑う。
「あいつとも、話ししたの?」
「え?」
「クソマリモだよ。まったく、一緒にいながら、
たしぎちゃんに怪我させやがって、まったくだらしねぇ野郎だ。」
「あ、あれは、私が・・・」
「久しぶりなんだろ・・・ちゃんと話した方がいいよ。」
サンジの言葉に困ったように笑う。
何を話せばいいの。
自分の気持ちさえもわからないのに。
子供達の所に戻るたしぎの後ろ姿を
眺めながら、サンジは煙草をふかした。
******
宴が盛り上がっているさなか、
ふと見ると、一番幼い女の子が眠りこけている。
お腹も満たされて、ホッとしたんだろう。
たしぎは女の子をそっと抱き上げると
タンカーまで連れて行くことにした。
「たしぎちゃん!俺らが運んでってやるよ!」
たしぎは首を振ると笑って答えた。
「いいの、私が連れて行きたいんです。」
子供って温かくて、この重みが、何だか心地よい。
たしぎはゆっくりとタンカーへ登っていった。
船室のベッドに寝かせ、毛布を掛けると
たしぎはそっと部屋を出た。
廊下に出るとその先に、ゾロが立っていた。
〈続〉
H25.6.21