episode18「見届けて」後編




たしぎが甲板に出ると、出航準備をしていたG-5達が
駆け寄ってきた。

「大佐ちゃ〜ん!エンジンもバッチリだ。
 これで、いつでも船出せるぜ。」

「ご苦労様。みんな、食事は?」

「あぁ、交代でご馳走になって来たぜ。旨かったなぁ、
 あのスープ。さすが、アニキ。」

「おっと、馴れ合っちゃいないよ、大佐ちゃん!」

へへへと笑う部下に、たしぎは笑っただけで、何も言わなかった。



タンカーを降りると、たしぎはスモーカーの元へ向かった。

「スモーカーさん、タンカーの出航準備が整ったので、
 これから子供たちを乗せ、出発します。」


「任せたぞ。」

「はい。」


「・・・よかったな。」

え?

スモーカーの言葉に思わずたしぎは見つめ返した。

「子供ら、無事に保護できて。」

あぁ、そういうことか。

「はいっ!」

元気よく返事をする。

「スモーカーさんも、お気をつけて。では、失礼します。」

踵を返すと、たしぎは隊員達のもとへ戻っていった。



「・・・・」

その背中を見つめるスモーカーは
たしぎの瞳に宿る力強さの理由を、言葉に出来ずにいた。

ローグタウンを出た頃のたしぎを思い出す。
真っすぐな瞳で、前だけを見据えて。


この2年、
揺らぐ瞳を何度も見てきた。

見つけたか・・・



考えるのはやめとこう。



スモーカーは、大きく葉巻を吸い込むと、
煙を吐き出した。



******


乗り込む隊員と子供達の人数をチェックし、
ここに残るスモーカー達に
海軍が来るまでの必要な物資を、タンカーから下ろす作業の指示に
たしぎは忙しく立ち回っていた。

忙しく動きまわっていないと、
この近くの何処かにいる
緑の髪を探してしまいそうだから。



「よかったね。」
急に声をかけられ、ビクッとする。

振り返ると、サンジが立っていた。
「子供たちに作った料理、運ばせといたからね。
 たしぎちゃんも食べてね。」

「あ、ありがとう、ほんとに・・・いろいろと。」

たしぎは、目を伏せる。



サンジは笑って煙草をふかしている。

「また、会えるよ。」


たしぎは、顔を上げた。


「俺達を、追うんでしょ。」

優しく微笑むサンジ。

「え、ええ。もちろんです。」

たしぎは、激しく頷く。

「こ、今度会ったら、今回のようには
 行きませんから!たとえ・・」

必死に海兵としての顔をしようとするたしぎを
やはり、サンジは笑って見つめてる。




「じゃ、それまで、元気でね。たしぎちゃん!」

サンジは軽くウインクをして、歩きだした。



たしぎは、赤くなった頬を覆うように手を当てた。


不思議なひと。



******



子供達も全員タンカーに乗り込み、
後は出航するだけとなったところで
岸壁にいる隊員達が騒ぎ始めた。


「海賊共は、この世のクズでェ!」

「おれ達こそが正義!」


かつての自分を見ているようで
胸が痛んだ。

「お礼なんか言いやがったら島に置いてくぞー!」

子供達を黙らせようと銃まで向ける始末だ。
涙をこらえる子供達が、どれだけ麦わら達に救われたかと
思えば胸が痛む。

「待って!!ごめんね!!!」


思わず、大声を張り上げた。

「あなた達、いい加減にしなさいっ!みっともない。」


海軍だ、海賊だと言う前に、
自分の目で、何が正しかったのか、その目で見てきたでしょう!



岸壁の離れた所で、
スモーカーはたしぎの叫ぶ声を聞いた。



「だがよ、たしぎぢゃん!悪口でも言い続けないと!?
 おれ達ァ、この無法者共を・・・!!!

 好きになっちまうよォォ〜〜〜〜!!!

 ・・・か・・・海賊なのによォ〜〜〜!!!」


「・・・」

スモーカーは思わず額を押さえる。
言っちまいやがった、バカヤロウ共。
笑い出すたしぎの顔も見える。
大莫迦野郎だ、お前も・・・


あまりの素直な告白に、たしぎは思わず吹き出して笑ってしまった。

ほんと、海賊なのに・・・



海賊なのに、好きになってしまったんです。


笑いながら、涙が滲む。

言葉にしたら、心がすっと軽くなった。


もう、隠しきれない。




思い切り子供達がお礼と別れの言葉を張り上げる。

「ありがとう〜〜!」





去りゆく麦わら達の中に、たしぎは緑の髪を見つける。

振り返りもせず、歩いて行く。

ビスケットルームで見上げた背中を思い出す。



あなたの背中。


見届けますとも。



たとえどうなろうとも、私が最後まで・・・




ゆっくりとタンカーが岸壁を離れる。
たしぎの想いと覚悟を乗せて。


風をはらんだ髪が揺れる。

それを手で押さえるたしぎの顔は
進み行く前を、真っ直ぐに見つめていた。



〈完〉


H25.7.11





きっと、また会えると・・・