刀を抜いたゾロの視線が、たしぎの伸びた髪の所で止まる。
「もう、パクリ女なんて、言わせません!」
この髪の意味するところを、たしぎは、告げる。
「何だよ!」
「その目で、ちゃんと、見て下さい・・・」
たしぎの視線がゾロの左目の傷で止まる。
「その目で・・・」
ゆっくりと目線が、右目に移る。
重なりあう視線。
「なんですか、2年も行方不明になっといて、
また、傷を増やして・・・
なに、やってるんですか・・・」
たしぎの声が消え入りそうに小さくなる。
「うるせぇ、お前がつべこべ言う事じゃないだろ。」
「全然、気にしてなんかいませんから。
呆れてるんだけです。」
「あぁ?何だっていうんだよ!
オレの身体だ、どうしようがオレの勝手だろ。」
「あなたという人は・・・」
眉を寄せる。
「あなたは、私が、仕留めます。だから、勝手に死んだら許しません。」
「はぁ?」
なにを無茶苦茶なこと。
お前こそ、勝手なこと言ってるじゃねぇか。
オレを仕留めるだと?
「やれるもんなら、やってみろっ!」
売り言葉に買い言葉。
その言葉に、たしぎは、すっと時雨を鞘に収める。
目を閉じて、小さく息をすう。
ゆっくりと、近づく。
ゾロを捕らえる黒い瞳には、なんの殺気も感じられない。
どうせ出来る訳がないと思っているゾロは、
余裕でたしぎを見ている。
「目をつぶってください。」
たしぎが、真っ直ぐにゾロを見つめたまま静かに告げる。
「何でだよ。」
お前の言う事聞かなきゃいけねぇんだ。
「怖いですか?」
ばかやろう。
「お前になんか、両目が潰れたって、負けやしねぇ。」
不満げにも、たしぎの言うとおりに目を閉じる。
左目に触れるものがある。
たしぎの指先だった。
すっと傷をなぞると、手のひらで、ゾロの頬を包み込む。
たしぎの体温が伝わってくる。
何だよ・・・
と言いかけたゾロの唇が柔らかく塞がれる。
思わず目を開けた先には、たしぎの前髪が揺れていた。
慌てる様子もなく、そっと唇と離すと、じっと見つめる。
「覚悟してくださいね。」
それだけ言い残すと、くるりと背を向けて立ち去って行った。
その後ろ姿をゾロは、阿保みたいに、動けないまま、突っ立って眺めていた。
たしぎの温もりが残る左頬に手をやると、呻くように呟いた。
「・・・何だよ。」
〈完〉