episode 4


刀を抜いたゾロの視線が、たしぎの伸びた髪の所で止まる。


「もう、パクリ女なんて、言わせません!」



この髪の意味するところを、たしぎは、告げる。


「何だよ!」

「その目で、ちゃんと、見て下さい・・・」

たしぎの視線がゾロの左目の傷で止まる。


「その目で・・・」

ゆっくりと目線が、右目に移る。

重なりあう視線。

「なんですか、2年も行方不明になっといて、
 また、傷を増やして・・・
 なに、やってるんですか・・・」

たしぎの声が消え入りそうに小さくなる。

「うるせぇ、お前がつべこべ言う事じゃないだろ。」

「全然、気にしてなんかいませんから。
 呆れてるんだけです。」

「あぁ?何だっていうんだよ!
 オレの身体だ、どうしようがオレの勝手だろ。」

「あなたという人は・・・」
眉を寄せる。

「あなたは、私が、仕留めます。だから、勝手に死んだら許しません。」

「はぁ?」

なにを無茶苦茶なこと。
お前こそ、勝手なこと言ってるじゃねぇか。

オレを仕留めるだと?
「やれるもんなら、やってみろっ!」
売り言葉に買い言葉。


その言葉に、たしぎは、すっと時雨を鞘に収める。
目を閉じて、小さく息をすう。

ゆっくりと、近づく。
ゾロを捕らえる黒い瞳には、なんの殺気も感じられない。

どうせ出来る訳がないと思っているゾロは、
余裕でたしぎを見ている。

「目をつぶってください。」
たしぎが、真っ直ぐにゾロを見つめたまま静かに告げる。
「何でだよ。」
お前の言う事聞かなきゃいけねぇんだ。

「怖いですか?」

ばかやろう。
「お前になんか、両目が潰れたって、負けやしねぇ。」
不満げにも、たしぎの言うとおりに目を閉じる。




左目に触れるものがある。
たしぎの指先だった。

すっと傷をなぞると、手のひらで、ゾロの頬を包み込む。

たしぎの体温が伝わってくる。

何だよ・・・
と言いかけたゾロの唇が柔らかく塞がれる。

思わず目を開けた先には、たしぎの前髪が揺れていた。

慌てる様子もなく、そっと唇と離すと、じっと見つめる。

「覚悟してくださいね。」
それだけ言い残すと、くるりと背を向けて立ち去って行った。


その後ろ姿をゾロは、阿保みたいに、動けないまま、突っ立って眺めていた。
たしぎの温もりが残る左頬に手をやると、呻くように呟いた。

「・・・何だよ。」



〈完〉



たまには強気のたしぎです・・・うふ