G-5物語 〜標的の島〜


最初の任務は、周辺海域の見回りだった。

見回りとは言っても、グランドラインのそれとは 勝手が違った。

海は荒れ、航海さえも気を抜けない。

上陸すれば、隊員達の素行の悪さにたしぎは、閉口した。
昼から酒は飲むし、食事をすれば騒ぐ。
道行く人々の足を止めては、遠慮なく話しかける。
「おう、最近どうだ?」
「困ってることはないか?」
「なんか、海軍に不満はないか?」
「言いたいことも言えねえのかぁ。はっきり言えよ!」
住人の顔も、心なしか怯えてるようだ。
「あれじゃあ、見回ってるのか、脅してるのか分かりません。
 もうすこし、なんとかならないものでしょうか。」

たしぎが、スモーカーに不満を漏らす。

「まぁ、あいつらなりのやり方なんだろ。」

子供たちが駆け寄ってきては、口ぐちに叫ぶ。
「あ〜、海軍だ!」
「海賊だと思ったよ。こえ〜〜!」
「なんだぁ?海賊なんかやってくるのか?」
「ううん!お前達しか、こんな所、来ないよ!」
「そうか。ならいい。」
「ここ、いい所だろうが!メシはうめえし、姉ちゃんは綺麗だ。」
「変な、海軍!」
「ほんとだ、海兵ってもっと、格好よくって、立派なんだって
 とうちゃん、言ってたぞ!」

「そうか、ははは。」

*****

「案外、あの騒がしさは 役に立っているんでしょうかね・・・」

最初の島に二日停泊し、次の島へと舵を切る。

海軍G-5ここにあり。
そう言ってまわることで、海賊は、避けて通るのか。
ここ数日の、部下達の様子を見て、たしぎはそんな想いも抱き始めた。


*****

次の島へ向かう中、隊員達の表情が少し険しくなった。
「何かあるんですか?」

「あ?ああ、悪いことは言わねぇ、おねえちゃんは、
 船に残ってな。」
「おねえちゃんじゃ、ありません。階級で呼びなさい!」

「アイアイサ〜!たしぎ少尉どの!」

ふざけた敬礼に腹を立て、たしぎはその場を後にした。


「どういう事でしょう?スモーカーさん。」

「行ってみりゃ、分かるだろ。」


到着した島の港は、荒廃していた。
あちこちに、砲弾の後があり、
崩れかけた堤防に、やっとの思いで船を泊めた。
軍艦から、物資を運び込む。
島の住人達が、少しずつ、顔を見せる。

「よかった、あんた達か。」
「また、あいつらが来たのかと思ったぜ。」
「最近は、夜もおちおち寝られないんだ。」

「何者ですか?港をこんなにしたのは。」
尋ねるたしぎを、島の老人は、まじまじと見つめる。

「あんた、海軍かい?」
「はい。」

「ここには、初めて来たのか。」
「ええ。」


「ここは、なんの物資もない小さな島だ。
 通りかかる海賊どもが、面白がって、砲弾を打ち込んでいくんだ。
 ほら、あの山の岩が見えるじゃろう?」

たしぎが顔をあげると、木も生えていない岩山が
ところどころ崩れている。
「あれは、砲弾のよるものなんですか?」

「あぁ、ひどいもんだろ。昼夜かまわずぶっ放していくんだ。」

「なんという海賊団か、分かっているんですか?」

「いや、いい標的の島のことを聞いたやつらが
 取りすがりに打ってくんだよ。通る海賊船みんなだ。」

「ひどい・・・」

老人は、じっとたしぎを見たまま、静かに言う。
「海軍に、奴らを捕えてくれとは、もう言わねぇ。
 こうやって、物資を運んでくれるだけで、我々は生きていける。」

たしぎは、なんと返事をしていいか、わからなかった。


******

「そりゃ、無理だ。少尉ちゃん。」

「あぁ、海賊達は遠くから、面白半分に
 大砲を打ってくるだけで、海軍の船が見えれば近寄っては来ない。
 船を島の入り江に泊めて、追いかけるには、距離がありすぎて、追いつけねぇんだ。」

「そんな、住民達が怯えているというのに、指をくわえて見てるだけなんて!」

たしぎは、その夜、ずっと自室で考え込んでいた。



〈続〉