今でも


ここは、グランドラインのとある島。
小さな島が連なって点在し、その島々では
毎日のようにカーニバルが催されている。
いわば、お祭り諸島だ。


つい先日のことだった。
シッケアールの古城で、ペローナが
「つまんな〜〜〜〜いっっ!!!」
とミホークに詰め寄ったのが原因で、
ゾロ、ミホーク、ペローナの三人は、
この島に、遊びに来ていた。
一年ぶりの、休暇らしい休暇だった。
ゾロは、残って稽古しててもよかったのだが、
半ば強引に、ペローナに連れてこられた。

それでも、普段とはうって変わり、
賑やかで、華やかな街は、気分を明るくさせてくれた。

三人は、レストランの二階の、通りを見渡せる絶好の場所で
昼食をとっていた。
目の前には、所狭しと、豊富な魚や肉料理が並んでいる。
酒も上手い。
コックの料理を思い出しながらも、ゾロは舌鼓をうつ。


程なく空いた皿を前に、ゾロはくつろいでいた。
ミホークは、何やら店主と奥で話している。
ペローナは、ガラス張りの厨房に張り付いて、
華麗なパティシエの技に見とれている。

通りが一際賑やかになった。
見下ろすと、通り沿いに人々が、集まって来ていた。
パレードを、今か今かと顔を輝かせて待っている。
音楽と、リズミカルな太鼓の音が聞こえてきた。

悪くねぇな。

何も考えないで、祭りの雰囲気に身を委ねる。
沿道の人々を見渡していたゾロの視線が止まる。

その視線の先には、一人の女が居た。

沿道の人々の中、ゾロは一人の女に目を奪われた。



シャツにパンツ。
いつもと変わらない服装と少し伸びた黒髪。
見まがう筈のない、たしぎの姿だった。



変わっていない。

顔を輝かせて、パレードを眺めている。
通り過ぎる山車を指さしながら、
振り返った相手は、スモーカーだった。

笑っている。
嬉しそうだ。

ゾロは心臓をギュッと掴まれたかのように、胸の痛みを感じる。
あの時の痛みだ。
声を掛けたお前を、振り返りもせず置いてった・・・



オレがここから見ていることをお前は知らない。






「おいっ!」

顔を上げると、目の前にペローナがいた。

「何だ?ボケっとして!行くぞ、鷹の目が呼んでる。」

手に一杯スイーツを抱えて、上機嫌だ。

「あぁ。」

立ち上がり、もう一度通りに目をやる。
その顔を目に焼き付けるように。






今なら、あいつに優しくなれるだろうか。


笑ってたな・・・

これで、きっと良かったんだ。



歩き出すと、ペローナが訝しげに問いかける。

「なんだ?いい事でもあったのか?」

「あ?・・・あぁ、そうだな。」
ゾロは少し寂しそうに笑った。




******



「いくぞ。たしぎ。」

「あ、はいっ。」
スモーカーに声を掛けられ、
たしぎは、慌てて見物客の列から離れる。

二、三歩進んだ所で、ふと、振り返る。

何か、忘れものをしたような。

そんな気がして、見た景色は、華やかで
自分の思い出したものが何だったのか
一瞬にして、忘れてしまう。

賑やかなパレードの踊り子達を見ながら、
空を見上げる。

自分でも何を探していたのか分らない。
ただ、名残惜しかっただけかもしれない。

小さく首をかしげると、
再び、列に背を向け、先に行くスモーカーの背を追いかけた。

どこまでも、空は晴れ渡り、
色とりどりの紙吹雪が、二人の間を
遮るように、風に舞っていた。



〈完〉