祝い酒


コトッ。
いつもは使わないグラスを船の手すりに置く。
新しい酒の封を切ると、酒を注いだ。
潮風が、微かな香りをはらんで、広がる。

月の光を浴びながら、ゾロは、幼い友の生まれた日を
一人祝う。

二十二か。
11月11日までは、歳の差が一つ開く。
その間は、いつも以上に年上面しやがって。
そうやって、ずっと続くものだと思っていた。
いつか、お前を越えてやると言いながら。
最後の勝負をしたあの日。泣きじゃくる顔が
今も、心に刻まれている。

もっと、笑って欲しかった。
何も出来ずにいた自分が、今でも歯がゆい。

なぁ、くいな。
俺はちゃんと強くなっているか?

世界一になる為には、まだまだ倒さなきゃならねぇ奴が
いっぱい居るんだろ。

生きていたら、こうやって杯を交わすことが出来たんだろうな。
大人になったくいなの顔は、どうしても、一人の女を思い出させる。

突っかかってきやがって、たいして強くもないくせに。
強くなりたい・・・あいつも、そう言って泣くんだろうか。

あんまり、泣き顔は見たくねぇな。

そこまで考えて、ふっと笑みを洩らす。
別人だってのによ、オレは、どうかしてるな。

あの黒髪と、白い頬。
触れてみたいと思うのは、何故なんだ。

くっと酒瓶を空にすると、立ち上がり、
グラスの酒を海にあける。

夜風は、心地よく、
月の光は、どこまでも優しくゾロを包んでいた。



〈完〉



2011年、くいな誕生日にて