カミナリ


「カ、カミナリが鳴った・・・」
そう言って、ゾロの寝ている部屋に来たのは、ペローナだった。
パジャマのまま、クマシーをしっかりと抱えて、 ドアにしがみつくように立っている。

夜半すぎから、雨の音がしたと思ったが、 先程から、雷鳴がとどろき、この古びた城に響きわたっていた。

ゾロは、やけにうるさいと思いながらも、 それが雷だとは、知らずに眠っていた。

「ん?どした・・・」
半分寝ぼけながらも、身体を起こし、頭をガリガリと掻く。

「だから、カ、カミナリが、」
ペローナの言葉をかき消すように、雷鳴が轟く。
「ひっ!!!」カエルがひっくり返った様に、飛び上がると一目散にゾロの元に 飛んできた。
「わぁっ!」ペローナに突進され、ゾロは顎に思い切り頭突きを喰らう。
「痛ってぇなぁ。」
じろりと、睨むと、ペローナは毛布にしがみついてガタガタと震えている。
「なんだぁ、いつもの強気の物言いはどうしたんだ?」
少し意地悪して、からかうと
「う、うるさい!誰だって苦手の一つや二つ、あんだろうがっ!」
必死になって言い返すが、泣き出すのを堪えているようだ。
「わかった、わかった。」
笑いながら、自分の毛布をペローナに掛けてやる。そして、立ち上がると歩きだす。
「どっ、どこへ行く!?ひ、一人にするなっ!」
毛布をかぶったまま、ゾロのスボンを掴んで、後を追う。
「ドアを閉めるだけだ。」呆れるように、でも、ゆっくり歩く。
重い扉をしめて、ベッドへと戻ると、横に並んでベッドに腰掛ける。

ペローナが占領してしまった毛布をゾロの背中にも遠慮がちに掛ける。
背中半分で、ずり落ちてしまった毛布を、ゾロは、再びペローナをくるんでやる。
窓の外は、まだ荒々しい風が吹き荒れ、窓ガラスが時折ガタガタと音を立てる。
ペローナはまだ、少し震えている。
「なぁ。お前、なんでモリアんとに居たんだ?」
ゾロが気を紛らわすように話しかける。
「・・・ウエストトブルーに居た頃、一人になった私を、モリア様は拾ってくれたんだ。」
「親とか、どうしたんだ?」
「ん?物心ついた頃には、居なかったな。旅芸人の一座にいたんだ。」
「そうか。・・・友達とかは?」
「そんなもん、幽霊連れている奴なんかに近づいてくる子供なんて、居る訳ないいだろ。」
ゾロは、黙って聞いている。
「ま、同い年の奴らなんて、みんな子供っぽすぎて、相手になんかしたくないさ。」
「お前、見かけによらず、しっかりしてるしな。」
「どーゆー意味だよっ!」
「ん。クマに飛ばされたオレを、助けてくれたろ。」
「ばかやろっ!それは、一人だったし、なんか、ココアでも作ってくれる奴がいたらいいと、思ったから・・・」
「最初からお前なんか、助けるかっ!」
ペローナの言葉を、ゾロは笑いながら聞いている。
「ありがとな。助かった。」
「う・・・」
黙り込むペローナの顔は、怒っているようには見えなかった。
感謝されることに、極端に慣れていないのがよく分かる。
「さ、もう雷も、収まってきた。寝ろ。」
そう言うと、ペローナの肩を毛布越しに抱く。
ペローナは、ゾロに寄りかかるように身体を預ける。
トクン、トクンとゾロの鼓動が伝わってくる。

連日、鷹の目に稽古を受け、ボロボロになるまで身体を痛めつけては、 フラフラになって眠るゾロを見ていた。
きっと今日だって、きつい筈だろうに。
ゾロの部屋をノックしても、起きなかったら、どうしようかと思っていた。
でも、今夜はありがたく、側にいたもらおう。
そんな事を、思っているうちに、ゾロの方が先にうつらうつらし始めた。
ペローナは、クスッと笑って、自分も目を瞑る。
今は、安心して眠ろう。

温かいゾロの鼓動を聴きながら、
ペローナはいつしか、眠りに落ちていった。


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「ふぁ〜〜〜〜〜。」
大きな欠伸をしながら、ゾロが目を醒ます。
昨日の嵐は嘘のように外は静かだ。
どうやら今朝の鍛錬は外で出来そうだ。
昨夜の珍客を起こさぬように、そっとベッドを降りる。
毛布を掛け直すと、足元に落ちていたクマシーのぬいぐるみを拾った。
それを、ペローナの傍らに置くと、そっと部屋を後にする。
ガチャ。
ドアの閉まる音に、少し目を開けたペローナは、クマシーではなく、 ゾロの枕をぎゅっと抱きしめると、再び目を閉じた。

もう少しだけ、このまま毛布にくるまっているぞ。いいだろ。


〈完〉