花信風 2


メールはたしぎからだった。

大学にいるの?バイクとまってたから


グランドの近くの木陰、ゾロのいつもの昼寝場所で
待ち合わせをした。


夕方、5時を過ぎても、まだ日は暮れなずんでいる。
ぼんやりと茜色に染まる空を見ながら、
ゾロは、イヤホンを耳に曲を聴いていた。

筋トレ後のけだるさの中、目をつぶる。


陽が遮られた感じがして、目を開けると
たしぎが、立ったまま、覗いていた。

「あぁ、なんか寝ちまった。」

「いつもでしょ、ロロノアは。」

と笑いながら、隣に腰を下ろした。


トクン


心臓の音が聞こえた気がした。

「何、聞いてるんですか?」

「聞くか?」

片方のイヤホンをはずして、差し出した。

「うん。」

向かい合わせになると、
たしぎは、受け取ったイヤホンを耳につける。

斜めにかしげた首筋が白くて、髪をかきあげる仕草が
ゾロは、妙に色っぽいと思った。

「なんて曲?」


上目づかいに見上げられ、言葉に詰まる。


「・・・片方じゃ、音、小さいだろ。」

自分のほうをはずして、たしぎの耳に持っていった。

両手で挟むようにたしぎの頬に触れると、
そっと上を向かせて、そのまま顔を近づけた。

目を見開いたままのたしぎ。

かまわずに、唇を重ねる。

やわらかい感触、ぬくもりが伝わる。

確かめるように唇でたしぎの唇の輪郭をたどる。

離して、息を吸うと、やっとたしぎの顔を見れた。
いつの間に、目をつぶっていた、たしぎが、ゆっくりと目をあける。


「な、なんですか・・・いきなり・・・」
恥ずかしそうに、視線を外らす。

「嫌だったか?」

小さく首を振る。

「じゃ、もう一回いいか?」

「ばか・・・」

ゾロは、ホッとして笑う。
じわじわと嬉しさが込み上げる。


「こんなところで、誰かに見られたらどうするんですか!」

赤くなりながらも、抗議するたしぎを
思い切り抱きしめたかった。

「んじゃ、家ん中なら、いいのか?」

「そういうこと、言ってるんじゃなくてっ!」


「いきなりで、びっくりしただけです・・・」

「お前だって。」

「あ、あれは・・・」

ぷいと、顔を背ける。
少しして、振り向いた顔は、いつも通りだった。

「好き・・・かも、この曲。」

ドキっとしながら答える。
「・・・あぁ、オレも・・・」

優しく微笑むたしぎに、またしても
心を持っていかれる。


****


もう少し、研究室でやることがあるという
たしぎと別れて、ゾロはアパートに戻った。


たしぎに聴かせた曲をかけながら、 ゴロンと寝転がる。


気づけば、頭の中は、たしぎの事ばかり。

あいつの笑顔がオレを、たまらなく幸せにする。

あぁ、認めるよ。あいつに惚れているってこと。


笑っている自分に気づきながら、目を閉じた。
春の訪れを感じさせるような、柔らかな空気い包まれて
ゾロは眠りに落ちていった。


〈完〉H24.6.1





未遂をね、書きたかっただけです、ハイ。(^^ゞ