けぶる雨

なにげに閲覧注意報!
迷ったら戻ってね。





















ムッとする湿気を含んだ空気の中、たしぎは勤務を終え、 船を降りた。

向かうは、街の酒場。 麦わらの一味を確認との情報があったからだ。

ほんの数分歩いただけで、汗でシャツがまとわりつく。
立ち止まると、雲に覆われた空を恨めしげに仰ぐ。 いっそ、一雨降ってくれたら、すっきりするのに。

空振りが多いが、今日の情報は確かなようだ。 もう、最後にロロノアと遭ってから、どれくらい経つのだろうか。
捕らえたいのか、逢いたいのか、自分でも分からなくなる。

一人、悶々と思いながら、足を早めると、とうとう霧のような雨になる。
細かい水滴は、じっとりとまとわりつく。

「遅かったじゃねェか。」
急に声をかけられ、驚いて顔を上げる。

薄闇の中、路地から出てきたのはゾロだった。

「ロロノア。久しぶりですね。」 いつもは、たしぎが先に見つけるのに、今日はゾロの方が、待ち構えていた。
「どうしたんですか?今日は。  やっと、勝負する気になってくれたんですか。」
そう言うと、時雨の柄に手を掛ける。
ゾロは、けっというような顔をして、ぶっきらぼうに答える。
「そうじゃねえよ。」

「お前は、逢いたくなんねぇのかよ!」
ストレートな言葉に、返事することも出来ずに、固まってしまう。

パラパラ、サァーッ、とうとう雨が落ちてきた。
雫が顎を伝って、激しく脈打つ胸元に流れてくる。
ざっと首を振り、雨を払うと、ゾロがたしぎに迫る。 有無を言わせずに、たしぎの手を取ると、走り出した。

「行くぞ。」

雨宿りに入り込んだ所は、海辺の漁師小屋だった。 網や、浮きがあちこちに転がっていて、人の気配は無かった。

先程から、たしぎは、何もしゃべらない。
私も逢いたかったと素直に言えればいいのに。 それを認めてしまえば動けなくなるのは、分かっていた。
どう答えればいいの?責めるような目でゾロを見つめる。

面白くねぇ。

たしぎの立場も理解してた筈だった。
それでも、困ったような顔をするたしぎがゾロを苛つかせた。

「お前は、違うのかよ。」 返事を待たずに、唇を重ねる。
濡れた髪をくしゃくしゃに掻き回して、たしぎの口内に舌を差し入れる。
返事の代わりに、たしぎの吐息がもれる。

唇を重ねたまま、シャツを引き裂くように剥ぎ取ると、 濡れた肌が、吸い付くように密着する。

たしぎの抵抗を一切受け付けずに、ゾロは、女を組みふせる。
優しさもへったくれもなく、無理やりたしぎの快感を引き出していく。
「う・・・っん・・・」
まだ、足りねェ、お前が足んねェ。
離れていた時を埋め合わすかのように、何度も求める。
「・・・ああっ。」
たしぎも、否応なく刺激される快感に溺れていく。
次第に大きくなる嬌声に比例して、更に激しく責め立てる。
訳が分らないまま、快感の果てに、動けなくなったたしぎを認め、 ゾロはようやく動きを止めた。

手の甲で、たしぎの頬をそっと撫でる。
ふっと目を開け、ゾロの方に手を伸ばすたしぎ。
その手を取って、抱き起こす。

ゆっくりと、たしぎはゾロに向き直り、力の入らない手を背中に廻す。
ゾロに持たれ掛かるように、抱きしめる。

聞き分けのない子をあやすように。
まだ、そんな顔してる。

たしぎは、まだ溜め込んだゾロ自身を自分に受け入れる。
向き合うように一つになり、その胸にゾロを抱く。

こんなにあふれているのに。まだ、分らない?
さっきまでの強気はどこにいったの。


たしぎの指先が、身体を撫でると、ビリビリと痺れるような快感がゾロの脳天を突き抜ける。
おかしくなっちまう。お前に触れられると。
たしぎの動きに、身を任せる。
波に揺られるように、お前の動きがオレを包み込む。
たしぎのとろけるような微笑みを認め、安堵する。

その、眉間の皺をほどいて、私にちょうだい。
全部、受け止めたいから。

支える指が、たしぎの腰にくい込んだ。
少しだけ、吐息をもらして、たしぎの奥深くで、ゾロが弾ける。
ほとばしる快感を、たしぎは飲み込んでいく。


******


外に出ると、雨は止んでいた。
雨雲は相変わらず留まり、またいつ雨が落ちてきてもおかしくない空だった。

来た時と同じように、ゾロはたしぎの手を引いていた。
離れがたい。

二人何も語らぬまま、歩く。
たしぎを見つめるゾロの目は、いろんな想いを物語る。

「・・・わたしも、同じです。」
たしぎは、さっきのゾロの問いに答える。

そして、あなたの瞳の想いとも、同じです、ロロノア。

何度、不安な夜を過ごしただろう。
幾度、切ない夜を過ごしただろう。

でも、こうやって会えるから。
約束は交わさない。

「じゃあ、またな。」 いつもの別れの言葉を交わして、二人それぞれ戻る場所へと帰って行く。
また、雨が落ちてきた。今度はいつ晴れるのだろう。
その時がいつになるのか、誰も知ることはできないけれど、 二人の心は、きっと来るその時を待つのだろう。


〈完〉


 BGMは、B'z「LOVE IS DEAD」