心の置き場所

「ロロノア、覚悟!」
ガキン!刀がぶつかりあう音が辺りに響く。

ここは、グランドラインとある島。
アラバスタを出航してから、ひと月ほど経っていた。

「だから、お前とは、勝負しねえって!」

「うるさいっ!そうやって、逃げてばかりいないで、  構えたらどうなんですかっ!」

「構える暇もねえ間に、てめえが飛びかかってきてんだろっ!!!」
思わず、お前から、てめえになってしまう。
こいつは、いきなりオレの懐に入りこんでくる。
ゾロは、一気に余裕が無くなってしまう。

「えいっ!」
何度も飛びかかってくるたしぎに、 ゾロはズバッと視線を合わせられずにいた。
こいつの、黒い瞳は苦手だ。目をそらせなくなる。
「足は、もういいみたいだな。」
たしぎの刃をかわしながら、つぶやく。

たしぎの動きが一瞬、止まる。
アラバスタの雨の夜のことが、頭をよぎる。

たしぎの一瞬の隙に、ゾロがたたみかける。
「でも、まだ、左が甘いんだよっ! それに、正面もだっ!」
ギン、ギン!雪走を左、そして正面下から振り上げ、たしぎの時雨を打ち払う。

はっ、はっ と息を荒らげながら、たしぎが見つめる。

「おまえは、ごちゃごちゃ考えすぎなんだよ!」
「あっ、あなたにそんなこと言われたくありません!」

ああ言えばこう言う。

キッと、ゾロをにらむと、
「私は、あなたを必ず捕らえますっ!」
精一杯の虚勢を張って、宣言する。
言ってしまうと、急に心が騒ぎ出す。

そうか、それでいいのか。
その日、初めてゾロは、たしぎの顔をまっすぐに見つめた。
目が合う。
何か言って欲しそうな顔のたしぎ。
剣士は、強くなることを望む。
それだけでいいんだ。

ごちゃごちゃ考えていたのはオレのほうか。

「じゃ、まだまだだな。」
にやりと、いつもの不敵な笑みを浮かべて、 くるりと背を向けて、悠々と立ち去ろうとする。

「待ちなさいっ!」
時雨を拾って、後を追うも、その姿は、また消えてしまった。

ふぅ、と大きく息をつくと、空を仰いだ。
これで、いいんだ、これで。
剣士としてなら、あの人は、私をちゃんと見たではないか。
これで、いい・・・

あいつは、強くなりたがっている。
オレと同じだ。
稽古に励んだあの頃と同じように。
これで、いいんだ。

それぞれの心の置き場を決めて、
再び、偉大なる航路を走り始める。
交差する運命を予感しながら。



<完>