まったく


とあるグランドラインの島の酒場、ゾロは一人酒を楽しむと、外にでた。
酒場が並んでいて、通りは賑やかだ。なにやら二三軒先の店先が騒がしい。
見るともなしに、眺めていると一際大きい歓声があがった。
まったくうるせぇな。

「あっ、准将!もう一軒行きましょう。」
「次は、どこ行きますか?」
後から出てきた男に声を掛ける。見れば、白猟のスモーカー。
げっ、見つからないうちに、とっとと離れようとゾロは身を隠すように行きかけた。

「まあ、待て、こいつを片付けてからだ。おまえら先行っとけ。」
「じゃあ、この先の"ニュー白バラ"にしましょう。たしぎ少尉がいらっしゃらないなら、
 お姉さん達がいる所でも、大丈夫ですよねっ!」
「あ〜?お前ら、どっから、そうゆう情報集めてくんだ?
 まったく。まぁ、いい、わかった。後で行く。」

聞きなれた名前に、よく見ると、スモーカーの背中にたしぎがいるではないか。
くたぁ〜っと、酔いつぶれているようだ。
何をやってるんだ、あいつは。

スモーカーは、部下達と離れて歩きだす。
どこへ行こうとしているのか、気にならないと言えば嘘になる。
人混みに紛れて、後を追った。

スモーカーが入った所は、小奇麗な宿屋だった。たしぎを背負ったまま、中に消えた。
どうする訳でもないが、ゾロはただその宿屋を見上ていた。
二階の端の部屋に明かりがともった。
窓辺に映る人影が、動いて窓を半分開けるのが見えた。どうやらスモーカーのようだ。

それから、スモーカーが外に出てくるまでの時間がとてつもなく長く感じられた。

宿屋の前に立ったスモーカーは、ふぅっと大きく煙を吐くと、 誰に言うでもなく、呟いた。
「あ〜〜、まったく、世話のやける奴だ。窓開けてきちまったが、
まぁ、忍び込む海賊なんていやしねぇだろう。」
そう言って、夜の繁華街へと歩きだした。

ゾロは、スモーカーが見えなくなると同時に、宿屋の塀と壁を伝い、目指す部屋へと登っていく。
キィ、開けられた窓から、そっと身体を滑り込ませる。
とんっと降り立つと、そこにはベッドで、すやすやと寝息を立てているたしぎがいた。
服は着たまま、気楽なもんだ。
こんな無防備なツラ、さらしやがって。

「ん、もう、飲めません・・・スモーカーさん・・・」
たしぎの口から出る上官の名前が、ゾロを苛つかせる。
普段から、こんなふうに甘ったれた声出してんのかよ。

「・・・ロロノア・・・」
自分の名が聞こえ、ドキッとする。これは、これで、やばいんじゃないか。
「・・・勝負です・・・」
ガクッ。お前、おちょくってんのか。
ベッドの側に立ち、ゲンコツで起こしてやろうかと思う。

阿保らしくなってやめた。
何だよ。

お前が全部オレのもんだとは、言わねェ。

だがな、離れている時間に何があろうと、オレは、何も出来ない。
酔いつぶれたって、指くわえて見てるだけだ。
何があろうと、側にはいれねぇ。
お前は、それでいいのかよ。


ゾロはベッドの側に座り込み、頭を預ける。


「つかまえた・・・」
ふいに頭の上が温かくなる。たしぎの手が触れている。
ゾロが振り向くと、たしぎの顔がすぐ目の前にあった。
「な、なんだよ。」
急にたしぎが起きたので、ゾロは驚いて顔が赤くなる。
「えへへ、ロロノア。捕まえましたぁ。」
まだ、酔っ払ってやがる。
それでも、嬉しそうに笑うたしぎから目が離せない。
「や、やめろ。離せ。」

「イヤです。せっかく、捕まえたんですから、もう少しこのままで
 おとなしくしていて下さい・・・」
ぴとっと身体をくっつけるように、ゾロを頭を抱きかかえる。
その柔らかさに包まれて、このまま、ずっと漂っていたかった。

そっと目を開けると、たしぎは微笑んだまま寝息をたてていた。
しばらく、その寝顔を眺めてから、そっとたしぎの腕を外す。

何が嬉しいんだか・・・。
それでも、いいのか?

飽くことなく、その寝顔を眺め、朝日が昇る頃、ゾロはそっと部屋を後にした。


******

休みあけに、隊に戻ったたしぎに、スモーカーは尋ねる。
「まったく、正体なくすまで飲むんじゃねぇ。」
「はい。すいませんでした。スモーカーさんが、宿まで運んでくれたそうで、
 ありがとうございました。」
「・・・で?」
「はい?」

「ちっとは、ゆっくり出来たのかよ。」
「え、ええ。もう、ぐっすり。」
「・・・・」
「いい夢も見れました!」
嬉しそうに笑うたしぎを、まじまじと見つめる。
「・・・そうか、それは何よりだ。」
「?」

スモーカーは立ち上がって、大きく葉巻の煙を吐き出した。
まったく、あらぬ疑いを持たれるのはゴメンだからな。


目の前には、紺碧の海が広がっている。
ゆっくりと、船はその懐を今日も進んでいく。
それぞれの想いを乗せて。


〈完〉


HP1000hit突破記念で、3番隊長さんからいただいたリクエストです。
にやにやしながら書いてました。楽しんじゃいました。ありがとうございます。