涙の理由(namida no wake)

その日の夜、酒を取りにキッチンに行くと、
ナミが一人飲んでいた。

ゾロは、少しためらったが、聞いてみることにした。
「なあ、ナミ、おまえルフィの傷見たとき、泣いたか?」
「なに?急に。泣くわけないじゃない、そんなの。」

拍子抜けした感じだったが、そりゃそうだろな、と思った。

「でも、2年前、新聞でルフィのこと知ったとき、
 なんにもできなかったのが、くやしかったなぁ。」
ナミが、遠く、思い出すような目をする。

「・・・そうだな。」
ゾロもあの日の夜を思い出す。

「でも、もう腹くくったわよ。どんなことあろうと進むんだって!」
ふふ、と笑う。
「なんたって、海賊王になる奴なんだからね。」

「ああ、まったくだ。」
つられて、ゾロも笑を浮かべる。

「でも、すぐにあのメッセージを伝えてくれたから大丈夫なんだって思えた。
それが、もし、2年も生死不明で、いきなり、その傷じゃあ、動揺するわよね。」
ナミの目が悪戯っぽく光る。
「なにかあったの?今日、海軍がいたみたいだけど。」

「・・・」
無言のゾロ。
それを肯定の返事と捉えるナミ。

「そうね・・・あたしが肩に刺青いれたとき、ゲンさんが泣いてたって、
ノジコから聞いたわ。やっぱり、親とか泣いちゃうんじゃないの?
子供が、傷が残るようなことすると・・・」

「親?!」
ゾロの眉がビクンと上がる。
親?あいつが親かよ!ありえん!

「あと、愛する人とかね・・・」
と小声で言ったナミの言葉は、ゾロの耳には届かなかったようだ。

酒ビンを手に、見張りに戻っていくゾロを、笑いをこらえてナミは見送った。
あいつは、幸せ者よね。

いったいどうゆうつもりなんだ、あいつは?
それじゃあ、俺が馬鹿みたいじゃねえか。
一人、夜空を見上げるゾロであった。