野分


おまけ 


「いらっしゃいませ。」

カラン。
入口のベルが鳴り、入って来たのは、ゾロだった。
黙ったまま、軽く頷くようにビビに挨拶すると、
真っ直ぐに、カウンターに向かい、いつもの席に腰を降ろす。

サンジはカウンターの奥で、グラスを拭いていた。

夜の8時半も過ぎていただろうか。
週末のオールブルーは、酒も入った客で賑やかだった。

ゾロはメニューも開かず、注文を告げる。
「あさりのトマトソースときのこの和風パスタ。」

何か言いたげなサンジは、それでも「あいよ。」と返事すると
奥へと引っ込む。
ビビが、水を運んでくる。
「今日は、随分遅いんですね。」
「あ、あぁ。」
軽く調整するつもりが、何だか、気が収まらず、
練習が終わった後も、一人で走っていた。

少し引き締まった顔に、疲れが見える。
大会前に、炭水化物を取りたかったが、どうにも、
食欲が湧かず、悩んだ挙句、オールブルーに足を運んだ。

程なく運ばれてきたパスタは
染み込むようにゾロの胃袋に収まった。
「うめぇ。」
思わず、口に出す。

ふた皿を平らげ、ふぅっと一息ついた。
やっと、落ち着いた気がした。


気がつけば、賑やかだった店も、
客もまばらになり、BGMが耳に心地よい。
ビビも仕事を終え、帰ったようだ。

しばしの満腹感で、ボーッとしていると、
カウンターの奥で、サンジがゾロを見ている。

「ほっとけなかったんじゃねぇのかよ。」
「・・・何の事だ?」
グラスを持つ手が止まる。

「何があったか知んねぇけど、一人で誕生日を過ごさせるってのは
 気に入らねぇな。」

どういう意味だ。

「昨日、来てくれたよ。」

昨日、あいつ、誕生日だったのか・・・
胸の奥がざわつく。

「忘れようとしてんだろ。」
お前がいるから。
「自分の気持ちに折合い付けてよ。
 つべこべ言わず、待っててやるのが、男じゃねぇの。」

何も言い返せなかった。

「ご馳走さん。美味かった。」

礼を言うと、ゾロは、静かに席を立つ。

サンジも、それ以上は何も言わない。
「おぅ。」と返事をすると、黙って見送る。

店を出た途端、自分の了見の狭さが身に沁みる。
あいつの話を、何も聞いてやしなかった。

今頃、どうしてるんだろ。
なんだか、無性に、たしぎに逢いたくなった。

でも、どうしたらいいのかゾロには、思いつかなかった。
あいつは、まだオレに会おうとしてくれるのだろうか。

見上げる夜空は、どこまでも透き通り、星が瞬いていた。
明日、また陽が昇ったなら、少しは、ましな自分になれるだろうか。
もっと優しくありたい。


部屋に、帰り着いたゾロは、久しぶりに
何も考えずに、ぐっすり眠ることが出来た。



〈完〉



H23.10.15. メインのようなおまけでしたね。
明日また陽が昇るなら 新しい自分に自分になってみよう〜〜♪