隻眼

新世界、とある島。
海軍は麦わらの一味が再び動き出したことに、
危機感を覚え、討伐隊を組織し、新世界に送り込んでいた。

「待ちなさいっ!」

時雨を片手に持ち、たしぎは、
緑色の髪、三本の刀を腰に差した男の後姿に声を掛ける。
以前グランドラインで会った時よりも一回り大きくなっただろうか。
隙がない。
ゆっくりとその男が振り返る。

「ロロノア、生きていたんですね。」
その男の顔を見たたしぎは、はっと息を呑む。
左目に縦に走る刀傷。そのまぶたは、開こうとはしない。

「おまえか、こんなとこまで追いかけてきやがったのか・・・」

たしぎは、時雨を抜こうともせずに、その左目をじっと見つめていた。
その視線に気づくゾロ。
「ああ、これか・・・まあ、目の一つぐらい、そう驚く事でもないだろ。」
にやりと笑う。

黒い瞳がさらに大きく見開から、たしぎは、無言でゾロに近づき、
その左目にそっと手を触れる。
殺気もなく、怒りも感じない指先に、ゾロは触れられるままにしておく。
その手は、暖かく、光を失った左目が、ドクンと脈打つのが分かった。

「な、なんだ!?急に。」
驚いてたしぎを見ると、黒い大きな瞳から大粒の涙が、
ぽろり、ぽろり
こぼれ落ちている。
後から後からこぼれ落ちる。
たしぎは、ゾロの左目に触れたまま、声も出さずに泣いている。

「な、なんで、おまえが泣くんだよ。
 俺は、こんなことなんとも思っちゃいねえ。」

「・・・わ、わかってます。あなたが、平気だってことぐらい・・・ただ・・・」
搾り出すように、伝えると、また、涙をこぼす。
その後、とめどなく流れ落ちる涙が止まることはなかった。


「・・・悪かった。」
 ゾロが呟いた。

何で俺がこいつに詫びなければならないのか、
そんなことはどうでもよかった。
俺の目が、こいつを泣かせてしまったのだ。

たしぎの頭を後ろから抱える。
もう一方の手で、背中をそっと抱く。

「わかったから、もう、泣きやめ・・・」

ロロノアは、大きくなった。麦わらの一味が壊滅したと聞いてから二年。
この人は、どんな死線をくぐり抜けてきたのだろうか。
生きているだけで、奇跡だというのに。
わかっているつもりだった。きっと、ぴんぴんしているに違いないと信じていたのかもしれない。
ロロノアの左目を見た瞬間、何も考えられなくなってしまっていた。


「麦わらの一味の目撃情報確認しましたっ!」
遠くで、叫ぶ声が上がる。

たしぎは、はじかれたように、顔をあげる。
ゾロが、「そろそろ、行かないとな。」と言いながら、
ゆっくりと腕を解く。

「じゃあな。」
軽く手を振って、消えていった。





ゾロに「そんなことはどうでもいい」と言わせたかった