幸せな時間

それは、雪の降るクリスマスイブの夜のことでした。
その男は、自分の宿に戻る道を探していました。
仲間の誕生日を祝う宴が終わった後に、飲みたりず、酒を求めて街に出たのですが、
あいにく、どこの店も混雑していました。
ようやくたどり着いた店で、酒を手に入れることが出来ました。
でも、その男には帰り道がわかりませんでした。
名前はロロノア・ゾロといいました。
すぐ戻るつもりで、上着も着ていませんでした。
雪は深々と降り続き、ゾロの頭には白い雪が積もり始めていました。
「う〜〜〜、さみ〜〜〜。」
震えながら宿を探すゾロの前に、一人の天使が微笑みました。
「こんな所で、何やってるんですか?」
黒い髪の眼鏡をかけた女でした。
その日の仕事はお休みで、 仕事の仲間達と食事会があったのです。
女の名前はたしぎといいました。
二人はお互いを知っていました。
いつもは、敵対する間柄ですが、今日はクリスマスイブ。
サンタさんは争いを好まなかったようです。

「いや、かまくら屋っていう宿屋に帰る途中なんだが。」
クスっとたしぎが笑いました。
「かまくら屋なら、ほら、すぐ後ろですよ。」
と言ってゾロの後ろの建物を指さしました。
ゾロは、宿屋の目の前で、その宿屋を探していたのでした。
「助かった・・・。」
バツが悪そうに、たしぎに礼を言いました。
たしぎは、可笑しそうに笑いながら、
「そんな格好で、風邪ひかないで下さいね。」
と言うと、自分が巻いていたマフラーを外すと、 ゾロの頭に積もった雪を払って、首に巻いてあげました。
「メリークリスマス。何もないけど、プレゼントです。」
そう言うと、たしぎはゾロの宿屋の向かいの店に入って行きました。
ゾロは、しばらくその姿をぼーっと眺めていました。

仕事の仲間達との宴も終わり、たしぎは、店の外へでました。
今夜は、この島に泊まる予定です。
歩いてすぐの宿に着きました。
自分の部屋に入り、ゆっくりとお風呂に入りました。
今日会った、ロロノアの姿を思い出して、クスっと吹き出しました。
お風呂あがりに、火照った身体を少し冷まそうと、部屋の窓を開けました。
雪は止んでいて、月が出ていました。
降り積もった雪が、その光に照らされて、とても明るい夜でした。
空を見上げれば、ソリに乗ったサンタさんが見えるような気がしました。
「きれい・・・」 たしぎは呟きました。
そこに、ヒュっと気配がして、雪玉が飛んできました。
窓のさんにあたり、ポトリと落ちました。
飛んできた方を見ると、そこにゾロが立っていました。
今度は上着を着て、首にはさっきあげたマフラーを巻いています。
どうやら、道に迷ってはいないようです。
「ど、どうしたんですか?そんな所で。」
驚いて聞くと、
「そっち、行っていいか?」
という答えが返ってきました。
たしぎの答えを待たずに、 ゾロはするすると、塀と屋根を伝って窓辺に登ってきました。
「あ、危ない!」
たしぎは思わず部屋に引き入れてしまいました。
部屋に入ってきたゾロは、にやっと笑って言いました。
「これの礼だ。」
たしぎが巻いてくれたマフラーを指して、懐から瓶を一本取り出しました。
「な、なんですか?」
「酒。あん時、買ってきた奴だ。」
「わ、わたし飲めないですよ。」
「くそ甘めーから、お前でも大丈夫だろ。」
そう言うと、部屋にあったグラスを取り出し、とくとくと注ぎました。
勝手に部屋に置いてあったポットの湯で、お湯割を作り、たしぎに差し出します。
「ほれ。」
そして、当たり前のように自分にも注いで、ぐびっと飲みました。
つられて、たしぎも一口飲みました。
「あ、おいし。」
それは、甘くて果汁のジュースのような味でした。
「だろ?」
「どうして、ここが分かったんですか?」
たしぎは尋ねました。
「オレの宿から、お前が出てくるのが見えたから、ついてきた。」
「追いかけて来たんですか?」
「そうとも言うか?」
しれっと答えるゾロが、可愛く見えました。
「私が、もし窓を開けなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「さあな。」
「ふふ、ありがとう。素敵なプレゼントです。」
たしぎが一杯飲む間に、ゾロはくぴくぴと三杯も、グラスを空にしていました。
身体も暖まり、気持ちよくなってきました。
「なんか、酔っ払っちゃいました。」
たしぎは、ごろんとベッドに寝転がりました。
ゾロは、椅子に座ってその様子を眺めていました。
なんだか、静かで幸せな時間が過ぎていきます。
同じ部屋で、二人でグラスを傾けあっているなんて、
こんな平和な時間が過ごせるなんて・・・
いつしか、たしぎは眠ってしまいました。
規則正しい寝息を、確認すると、ゾロは、掛け布団をたしぎにかけてやりました。
やさしい寝顔に、そっと手を触れると、静かに窓から姿を消しました。
Merry Christmas!



〈完〉



モチーフは、そう、「かさじぞう」!