G-5物語 〜傷〜


スモーカーとたしぎがG-5を率いるようになってから
半年が過ぎようとしていた。

航海を重ねる毎に、なんとも言えない チームワークが出来上がっていた。
相変わらず、スモーカーの怒鳴り声と
たしぎの張り上げる声は響いていたが。

その日、初めて上陸したのは大きな街がある 賑やかな島だった。

物資の補給も兼ねて、しばらく駐留することになった。
隊員達は、少し浮かれている様子で
早速、どこで飲もうかの相談を始めていた。

「バカヤロウ!任務が先だ!」
スモーカーのひと声に、皆シュンとする。

「一億ベリーの賞金首が、潜伏中という情報が
 本部からあった。船はまだ確認されていないが、
 一度、街を捜索する。いいな、休暇はそれからだ!」

「みんな、手配書をきちんと確認しておくように。」
たしぎが、手配書を皆に配る。

「億越えかぁ、また、厄介な奴だな。」
「なんだ?悪魔の実の能力者か、カゼカゼの実だとよ。」

「いいか、こいつは手前らに手に負える相手じゃねえ。
 見つけたら、手を出さずに、俺にすぐ知らせろ、分かったな。」

「はいっ!お任せします!スモ准将どの!」

「ったく、こんな時は、准将どの呼ばわりか!」

「へへへ。頼りにしてま〜す。」



地図を眺めながら、たしぎが相談する。
「スモーカーさん、この街は、南北に長く広がっています。
 町はずれから二手に別れて捜索し、中心街で合流するというのは
 どうでしょうか?」

「うむ・・・」
スモーカーは地図を眺めた。

「いや、ど真ん中から始めるぞ。背中は、仲間の方がいいだろ。」

「わかりました。」

たしぎは、テキパキと指示して、隊を二つに分けた。



*********



賑やかな街の割には、住民達はどこか怯えていた。
時折吹く風に、後ろを振り返る。

カゼカゼの実の能力者の影響だろうか。

街の中央で、スモーカー達の班と別れ、 たしぎ達は北に向かっていた。


春先特有の埃っぽい風が、店の看板を揺らしている。
すこし汗ばんだシャツの袖をまくりあげた。

中心街からだいぶ歩いた。
家並みもまばらになり、人通りも少ない。

このまま、何もなければ、戻ってスモーカーさん達と合流しよう。

少しの不安が、たしぎの心を急かした。


ぶわっ。

たしぎの髪が、後ろから巻き上げる風に乱れた。


生あたたかい風が、まとわりつくように
流れたかと思ったら、渦を巻くように、目の前で人の姿へと変わった。

「お前たちかい?私を探してるってのは。」

ゆらりとたたずむ風貌は、吹き上がる風を
纏いながら、目だけが冷酷な光を放っていた。

隊員達に緊張が走る。


「みんな下がって。」

たしぎの声が部下たちに届く前に、 目の前の男が、腕を振り上げた。


一瞬、耳元で風の音がしたかと思った途端、 腕から血が吹き出した。


斬られた!

思う暇もなく、たしぎは本能で飛びずさった。

「うわぁ!」

後ろで声があがり、部下達がバタバタと倒れた。

「痛てぇ!」
「やられた〜!」

一気に体勢が崩れる。


いけない!ここで、退けば皆がやられてしまう。


たしぎは、倒れた部下達を庇うように
能力者の前に立ち塞がった。

無事な者達は、負傷した者を抱えその場から離れる。
残った部下達がたしぎの背後で体勢を整えた。



深呼吸を一つ。


見えない剣と同じだと思えばいい。

気配を感じろ。


たしぎは、静かに息を吐き出し、目の前の相手を見据えた。



逃げ出さないたしぎの様子に、
能力者の海賊は、珍しいモノでも見るように、眉をあげて面白がった。




「おや?逃げないのか?
 いいのかい?オレの餌食になっちまうよ。」

ニヤニヤと笑いながら、近付いてくる。

ヒュッ!ヒュッ!と風斬音が鳴る度にたしぎの
身体から血が流れる。

何処から飛んでくるか分からない風の軌道を 防ぐ術はない。
身体の中心さえ守れば、なんとか持ちこたえられる。



そんな、たしぎの思惑を知るかのように、
能力者はわざと浅く傷つけて、その様子を楽しんでいる。


このまま、私に引きつけておけば・・・




「いいねぇ、その顔。切り刻んでやりたいよ。」


その酷薄な目に、ゾクッと震えを感じた。


「ダ、ダメだ!少尉!
 かなわねぇ!やられちまう!逃げよう!」


いいように弄ばれるたしぎを見て、
部下達は、じりじりと後退し始める。

「私がここで食い止めます。あなたたちは、応援を呼んで下さい!」



一斉に頷く。

「スモやんに知らせよう。このままじゃ、少尉が危ない。」

「お、おうっ!」

「急げ!」

最後尾の部下の一人が、駈け出した。

もってくれよ!スモやんが来るまで!
たしぎちゃん。やられるなよ!



〈続〉