素直じゃねぇな

追いかけてくるたしぎの気配を感じながら、ゾロは、細い路地に入り込んだ。

「待ちなさい!」追いついたたしぎの声に、立ち止まり振り返ると、
逆に、壁際に追い詰めるように近づく。

狭い路地で、たしぎは思うように刀が抜けないでいた。
どんっと壁に手を置くと、睨みつける。
「ほんとに、勝負だけしてぇのか?」

「そ、そうです。勝負して私が勝ったら、ロロノアを捕まえますから。」
「勝負して、負けて、はい、サヨナラかよ。」
背中を壁にくっつけたまま、たしぎは、不機嫌なゾロに戸惑っていた。

「どういう意味ですか?」

「やりたくなんねぇのかよ。」
こいつを困らせて、どうしようってんだ。
ゾロは、自分の意地悪さに、引っ込みがつかなくなっていた。

「素直じゃねぇな。」

黒い瞳が、潤んだように見えた。
たしぎの吐息が、ゾロの顔にかかる。



「だって、素直になったら、
・・・素直になったら、触れたくなるでしょう・・・」

そう言って、震えなから、ゾロの唇に触れるような口づけをする。
捕まえようとすれば、消えてしまいそうな、そんなキスだった。
たしぎは、恐る恐る背中に手を伸ばして、抱きしめる。
動いたら解けてしまいそうなくらい、そっと、そっと、抱きしめる。

脳天をガツンと殴られたような衝撃を受ける。
なんだよ。反則じゃねえか。
こんな、こんな、口づけをされたら、手も足も出ない。
されるがままに、つったってるだけだ。
何も言えず、少しも動けずに、たしぎに抱かれたまま、 身を委ねていた。

「もう、行かないと。」
と、たしぎがカラダを離そうとする。
ゾロは我に返って、ぎゅっと抱きしめる。
「・・・今日はもう離したくない。」
たしぎの肩に顔を埋めたまま、呟く。
さっきまでの、余裕はなくなっていた。
子供のように、離れたくなくて、しがみつくように抱きついている。
素直じゃねえのはオレの方だ。
この手を離さないでくれ。
このままずっと。



〈完〉