Wedding!Wedding!


汝 良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、
共に歩み、死が二人を分かつまで、愛することを誓いますか。

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はぁ〜〜〜、綺麗だったなぁ。 たしぎは、椅子に座り、大きく身体を反らす。
夜風に当たりたくなり、パーティ会場の庭先に出てきた。 今日は、たしぎの同期の海兵の結婚式があった。
新郎も海兵で、職場結婚だ。当然、招待客も海軍関係者が多く、 まるで同期会のようで、楽しかった。
同じ時期に入隊した仲間は、今ではぞれぞれの部署で働いている。 こうやって顔を合わせる機会は、滅多にない。

軍を辞めた同期の女子も顔を見せに来ていた。結婚し、子供も生まれ、普通の生活を送っていると、
「もう、つまんないわよ。毎日、子供と旦那の世話ばっかりなんて。」
そう話す彼女の表情は、これが幸せというものなの、と物語っていた。
「たしぎは、刀が恋人だもんねぇ。」
「ほんと、刀バカ。それに、よくあんな上司の元でやってるわよね。」
「人使い荒いでしょ、スモーカーさん。ほんと偉いわ。」
「以外に、同じ隊に気になる人がいたりして!」
「ええ〜〜!どうなの?誰かいるの?ねぇたしぎぃ。」
お酒の入った女子のお喋りを止める手立ては無いことはよく知っている。
えへへ、と適当にごまかしながら、その輪から離れた。
何杯か甘いお酒も飲んだ。口当たりが良く、少し酔ったみたいだ。
火照った頬を冷ましたくて、建物の外に出た。

結婚式は、大きな庭園を借り切って行われた。
広い緑の芝生と白樺の林が、清々しく気持ち良かった。
この島の風習だろうか、会場の前を行き交う人々にもお酒や食事を振舞っている。
庭の入り口あたりにも、人々が集まってなにやら賑やかだ。

そんな光景を遠くに見ながら、たしぎは庭園の奥にあったベンチに腰掛ける。
幸せって何だろう。人それぞれと言うけれど、私は幸せなんだけどなぁ。
そうは見えないのかなぁ。
ふふふ、自然に笑ってしまう。皆んなの暮らし、守る為に頑張ってるんでしょ。
そう、私の大好きな人達が、安心して暮らせますように。

ふと、新婦の純白のウエディングドレス姿が目に浮かぶ。
自分を重ね合わせる。憧れがないとは言えない。
いつか、自分も纏う事があるのだろうか。
相手は・・・
悔しいけれど、あいつの顔が浮かんでくる。無理、絶対無理。
想像すること自体、間違っている!
「ダ、ダメだぁ。」思わず天を仰ぐ。
「何が、ダメなんだよ。」
その声にギョッとして振り返る。
よく見れば、ベンチは背中合わせに二つ並んでいて、たしぎの後のベンチには、 今頭に浮かんだ緑色の髪の男が、寝転がっていた。

「ど、ど〜〜して、ロロノアがここにいるんですかっ?」
「オレは、最初からここで寝てたぜ。」
「だから、ここ、結婚式で、えっと、海軍がいっぱい居て・・・」
「そこで、酒、配ってたから、ありがたく飲んでたって訳だが、なんか文句あるか?」
「・・・・」
ようやく状況が飲み込めた。
瓶ごと何本か貰ってきたのだろうか、ベンチの足元に空になった酒瓶が2、3本転がっている。
いくらなんでも、気前がよすぎやしないか。
「で?何がダメなんだ?」
「え、え〜〜〜っと・・・あは、ははは。」
頭に浮かんだ絵柄を、必死に消そうと笑ってごまかす。
「どうせ、綺麗な花嫁さん!私も、なりた〜〜いっ!なんて、夢見てたんだろ。」
馬鹿にしたような口調に、腹が立った。
「でも、やっぱり、私にはダメだぁ。ってか?」
意地悪く笑うゾロの、胸ぐらを掴む。
「私が、ダメなんじゃなくて、ロロノアが、ダメなんですよっ!!!」
「は?」どういうこっちゃ。飛躍した論理についていけず、ほけっとたしぎを見つめる。

「だから。」すっと息を吸い込み、一瞬真剣な眼差しでゾロを見つめる。
大きな黒い瞳が、ゾロを捉える。

「汝 良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、
 共に歩み、死が二人を分かつまで、愛することを誓いますか。」

ゾロには、それが、結婚する二人が交わす誓いの言葉だと理解するのに、しばらくかかった。

「ロロノア、誓えないでしょ?」ゾロの胸ぐらを掴んだまま、揺さぶりながら訴える。
ゾロは、何も言えずに、じっとたしぎの顔を見つめたままだ。
たしぎは、突然、ガクッとうなだれて、力なく掴んだ手を離す。
「あたし、何言ってんだろ・・・」己の無謀な要求に、勝手に自己完結してしまった。

「びっくりさせんじゃねぇよ。」ふうっと、一息ついて、ベンチに座り直す。
背中合わせの影が、夕闇に動かなくなる。
二人の間に、沈黙が流れる。
酔いにまかせて、何を口走ってしまったのだろう。
酒のせいではない顔の火照りが、たしぎを包み込む。

ごそっ。
後ろで空を仰いでいた背中が動く気配がした。
キュッ、キュッ、ポン。 酒瓶の栓を抜く音がした。

ふっと、懐かしいような香りが漂う。
どこか子供の頃、父の傍で。夕食の時だったろうか。
膝に乗って、身体を預けていた記憶。

コクコクと、喉が鳴る音が聞こえる。
なんて、美味しそうに飲むのだろう。この男は。
たしぎは、ゆっくりと振り返る。

喉を潤し終えた男が振り返る。目と目が合った。
ゾロの瞳に、少し緊張が浮かんでいた。たしぎが、口を開きかけたとたん、
「飲めよ。」と、酒の瓶を差し出される。
「私はもう・・・」首を振りかけるが、「いいからっ、飲め!」
ずいっと瓶ごと預けられた。ほのかな香りに、促されて口をつける。
コクッ。水のように喉を流れ落ちていく。コク、コクッ。
胃の腑に落ちた途端、かぁっと身体中が熱くなる。

びっくりしたような顔で、ゾロを見つめ返す。
にやりと、笑うその顔は、何を企んでいるのだろう。

「たしぎ、お前は、誓えんのかよ。」
身構える間もなく、ゾロの唇がたしぎの唇に触れる。

「じゃあな。」
ひらりとベンチから降りると、さっと歩きだす。
「ちょ、ちょっとぉ。」
訳がわからないまま、立ちあがると、さっきの酒が効いたのか、グラリと地面が回った。
力が入らず、その場にへたり込む。

小さくなっていくゾロの姿を見つめながら、たしぎは、不思議な気分だった。
何?今のは。
フワフワと身体が宙に浮いているような感じがして、ゾロが残していった酒の瓶を抱えていた。


ばかやろう。オレの村じゃぁ、誓いの言葉なんて吐かねぇんだ。
黙って、酒酌み交わすだけだ、おぼえとけ。

そんな説明は、一切しなかったが、ゾロは上機嫌で、船に戻っていった。

もちろん、その杯の意味を、たしぎが知るのは、もっとずっと後の話。


〈完〉



結婚しちゃたよ〜おいっ!(笑)