かわいた風が、吹きぬける荒野で、
ゾロは一人、考えてていた。
三刀流の剣士が、一本足りないんじゃ世話ねえな。
ま、しょうがねえ、行くしかないか。
失われた親友の形見。
腰には、秋水と三代鬼鉄だけが、主人に寄り添っていた。
これから、進むべく道の遥か彼方に目をやる。
あの向こうが、最後の戦いの場所か。
そこに、馬の駆ける音が聞こえてきた。
一頭の馬がこちらへむかってくるのが見えた。
誰か乗っている。
ゾロは、秋水に手をかけ、じっと目をこらす。
騎乗の人物は、たしぎだった。
「ロロノア!」
馬を止め、ゾロの前に近づくと、
すとんと、飛び降りた。
「おまえが、なんでここに。」
質問には答えず、背中に背負っていた
刀をゾロに差し出す。
「ロロノア、あなたにこれを届けにきたんです。」
和道一文字だった。
「お前、どうして、これを。」
驚きながらも、ゾロは、受け取るとすっと抜いて中身を確かめる。
本物だ。
「それと、鷹の目からの伝言です。」
たしぎは、ミホークの言葉を伝えた。
ゾロは、ふっと笑い、
「ああ、わかった。」
と空を仰ぐ。
たしぎは、師弟、ロロノアと鷹の目の関係を、いまさらながら、思い知る。
「さてと。役者は揃ったことだし、行くとするか。」
ゾロは、たしぎを見つめる。
たしぎも、ゾロから目をそらさない。
「オレは、これから、奴らの所へ行く。」
顎を振って、指し示す。
「たしぎ、お前は?」
「私も、行きます。」
「海軍はよ。」
「スモーカーさんも、奴らを阻止するべく、向かっているはずです。」
「そうか、じゃあ、敵は同じだな。
・・・一緒に行くか?」
たしぎは、はっとするも、力強く、頷く。
ゾロは、馬に飛び乗ると、すっと手を差し出す。
「乗れ。」
たしぎを引っ張り上げると、後ろに乗せる。
「行くぞ。」
「はいっ。」
たずなを引いて、馬を駆る。
「ロロノア!」
「ん?」
「あっちです!」
たしぎが、指を差す。
「・・・」
ぷっ、と後ろでたしぎが吹き出していた。
回した腕に力が入ったのが解った。
そのまま、馬を走らせる。
二人とも、口には出さずとも、感じていた。
この瞬間が永遠に続けばいいのに。
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カツッ、カツッ、蹄の音がゆっくり止まる。
辺りは、不気味な静けさに包まれている。
前を向いたまま、ゾロが口を開く。
「たしぎ・・・死ぬなよ。」
「・・・ロロノアも。」
「ああ。約束だ。」
たしぎの頬が、ゾロの背中に触れる。
前にまわしたたしぎの手に、ゾロの手が重ねられる。
「行くぞ。」
「はい。」
二人は、戦いの中へ身を投じるべく、馬を走らせた。
*******
「うっ!」
時雨が飛ばされた。
右腕が痺れ、動かない。
「たしぎっ!」
ゾロの声に、はっと顔をあげると、
「これを使え!」と、刀を投げてよこした。
和道一文字だった。
たしぎは、これがゾロにとって、どういう刀なのか知っていた。
受け取って、暫く何も言えず、つっ立っていた。
「ボケっとしてんじゃねえっ!」
ゾロが叱り飛ばす。
「死ぬな!約束だろっ!」
たしぎは、頷くと、すっと刀を抜く。
はい、私とあなたとの約束でしたね。
刀を構えた瞬間、驚愕した。
その切っ先までが、自分の身体の一部のように感じられた。
鋭い。
速い。
なんて刀だ。
「ぐずぐずすんな、行くぞ。」
ゾロが駆け出す。
時雨を拾い、腰に納め、遅れまいと、その背中を追う。
かつては、とらえる為に追った背中を、
今は同じ目的の為に追っている。
不思議な感覚だった。
走っていたゾロが、すっと手でたしぎを止める。
前方に見えたのは、シリュウの姿だった。
「どうやら、ここまでのようだな。
おまえは、早く、海軍の奴らと合流しろ。
こいつは、オレの相手だ。」
相手をじっと見据えながら、ゾロが告げる。
たしぎは何も言えずに、すっと和道一文字を差し出す。
「これを・・・」
たしぎを見て、無言でそれを受け取る。
大きい瞳で、じっと見つめる。
「約束ですよ。」
ゾロが、微笑む。
「ああ。」
今は、何も言うまい。
また、再び会ったときに、それはとって置く。
お互いの胸に想いを秘めて。
〈完〉
やはり、三代鬼鉄は、たしぎが選んでくれた刀なので、
ずっと、一緒に戦って欲しい。