episode17「抱きしめあった理由なら」



「お前が下だからだ!」

「・・・・!!」


「行くぞ!」
ゾロは口を開けてまだ何か言いたそうなたしぎを
後にして歩き出す。


相も変わらずこの男は
いちいち癇に障るもの言いをする。

とてつもなく強くなってはいるけど、
中身はちっとも変わってないのかもしれない。


たしぎは、少し笑うとゾロの後を追って走り出す。

あれ?
走ってる筈なのに、ロロノアに追いつけない。
ふらつく身体。




グラッ。

急に平行感覚を失い、床に膝をついた。


いけない、血が流れすぎた。

左肩を押さえる指の間から生温かい血が滲み出している。


止血しないと。


コートのポケットから包帯代わりにと
ハンカチを取り出そうとしたところで、意識が途切れた。








「おいっ、しっかりしろ。」


遠くでロロノアの声がした。



まだ目眩がする頭が、しだいに意識がはっきりしてくる。

「・・・・う・・」

私、どうしたんだっけ・・・


まだ、ふわふわと揺れるような感覚のまま、
目を開けると、目の前に迫っていたのはゾロの胸だった。


背中と腰に廻した手がたしぎの身体を支えている。


肩には布が巻かれ、冷えきって血の気の引いた身体を
ゾロは温めてくれていた。

どんな顔して巻いたんだろう。
そう思うとたしぎの胸はジワリと熱くなった。



もう、忘れたはずなのに・・・





頬に当たるロロノアの胸と伝わる鼓動。
節くれだった無骨な指。
髪にかかる息遣い。

視界に揺れるピアス。


このぬくもり・・・



もう、求めたりしないと決めたのに・・・




たしぎは、指先に当たるゾロの上着をギュッと握ると
口づけるかのように男の胸に顔を埋めた。



ビクン。

ゾロの身体に緊張が走る。


「・・・・」




ゾロの無言の反応が、次第にたしぎを冷静さを取り戻させる。




莫迦なことしてる・・・

たしぎは後悔し始めていた。

じわりと涙が滲む。




「あ。」


不意に、強い力で抱き寄せられて、思わず声が漏れる。



「・・・・」

何も言わないゾロの鼓動だけが、やけに強く感じる。


それが自分の心臓の音なのか、わからなくなる。




どういう意味?



ロロノア・・・

この手は、どういう意味ですか?




「・・・気づいたか?」

ゾロの低い声が響く。

なんだろう、優しく感じる。

返事もできずに、たしぎはコクンと頷いた。



「・・・行くぞ。」

ゾロが肩を抱いて、身体を離した瞬間
二人の視線がぶつかった。



胸が詰まる。

言いたいことは沢山あったはずなのに。

言葉が出てこない。



ゾロの顔が一瞬、苦しそうに歪んだ。



そんな顔すんな・・・




オレが言える立場じゃねぇな。




ミシッ。
ビスケットルームの板を打ち付けた入り口のから
ガスが漏れ出してきたのが見えた。




ふっと力が抜けた笑みを浮かべると
「つかまってろ。」
と言うなり、たしぎを担ぎ上げ、立ち上がった。



「え?!ちょ、ちょっと!
 何するんです!」

ゾロの顔が見えなくなって、たしぎは少しホッとしていた。
私は、何を期待してたんだろう?



また・・・


たしぎは自分を笑う。

頭を振って、浮かんだ想いを振り払う。




「ガスがもれてきやがった・・・!!急げ!!」

ゾロの声に、我にかえった。

「出口そっちじゃないですよ!!」


R棟1階を目指してゾロは走り出す。


「や・・・やだ!!恥ずかしい〜〜〜〜っ!!」

変に意識せずに話しができる。


「てめェが急に倒れるからだろ!!
 ガスが漏れ出してんだよ!!」


「ちょっと目眩がしただけですっ!」


「世話かけやがる!!」

さっき感じた胸の痛みを
心の奥底に沈めて、たしぎは身を委ねた。



〈続〉







直情型ラブロマ〜ンスよ♪
episode18へと続きます。