「おいっ!待てよ!」
ルフィは、施設に姿を消すローに向かって叫ぶ。
ルフィ達は、ローの近くに倒れていたスモーカーの姿を認めた。
いろいろと質問責めにしたのが気に障ったのか、
ろくに答えもせずに、背を向けて立ち去ってしまった。
「おい、ケムリン、大丈夫なのか?
死んでねぇよな。」
ゾロに確認するように、ルフィが問う。
スモーカーの元に近づいて、身体を起こす。
「心臓が抜き取られている・・・」
信じられない状況に、ゾロも息を呑む。
「・・・息はあるようだ。
こんな状況で、生きていられるなんて、これがローの能力なのか?」
得体の知れない悪魔の実の力に、ゾロは眉をひそめる。
「とにかくあいつに聞いてみないと、わかんねぇな。」
ルフィが腕を組んで、不満げな顔をする。
「そんな物騒な奴、近づきたくねぇな。」
ウソップが震えながら呟く。
「オペオペの実。その指定されたエリアの中では、
自由に人の身体を切ったりくっつけたりすることが出来る・・・
確か、そんな能力。」
ロビンが思い出しながら、皆に伝える。
「とにかく、あのままじゃ、ケムリン死んじまう!
ローに、元に戻してくれるように、頼んでみる。」
「そう簡単にいくかしら?」
「言ってみなきゃ、わかんねぇだろ。行くぞ!」
ルフィが駆け出す。
「おぃ、でも、スモーカーの身体、このままほっぽって
いいのか?凍っちまうぞ。」
ウソップが慌てて聞く。
「かえって、腐らなくて調度いいわ。ウジもわかないでしょうし。」
「おめー、こえーよっ!!!」
涙目のウソップ。
「あ、私も、身体、冷凍保存できたたらよかったんですねぇ。」
ブルックが、空を仰ぐ。
そこへ、部下に支えられながら、たしぎと海軍達が戻って来た。
「おい!海軍だ!やべーよ。俺達の仕業だと思われちまう!」
ウソップが騒ぎ出す。
ゾロが、叫ぶ。
「先に行ってろ!ルフィ。こいつの身体海軍に預けて、すぐに追い付く。」
「わかった、ゾロ。行くぞ、みんな。」
ルフィを先頭に走り出し、施設の中へ入っていく。
「ちゃんと、追いつくかしら?ゾロ。」
ロビンが気にしながら、続いた。
*****
ゾロは思い出していた。
倒れたスモーカーに駆け寄るたたしぎを。
大きく開かられた瞳は、スモーカーを見つめたままだ。
「生きてる。」
ゾロの言葉に、膝からその場に崩れ落ちる。
「大丈夫か?大佐ちゃんっ!まだくっついたばかりだ、無理すんじゃねぇよ。
スモやんは、死んだりしねぇ、しっかりしろ。」
たしぎに続いてやってきた海軍たちが、声をかける。
「あいつに、斬られたのか?」
海兵たちの話から、ゾロが尋ねる。
「・・・笑えばいい。斬られて尚、生きながらえている・・・」
たしぎは、悔しそうに、顔を背ける。
「あいつは、強すぎる。俺達じゃあ、歯が立たねぇ。」
「軍艦だって、バラバラにされちまった。」
戦闘の様子を思い出し、身震いする海兵達。
「スモーカーさん・・・」
溢れる涙を隠そうともしないで、たしぎがスモーカーの身体を胸に抱える。
ゾロは、その様子を複雑な気持ちで見つめていた。
「私が、弱いばっかりに・・・」
噛みきれんばかりに強く噛んだ唇から、
こらえきれない嗚咽が漏れる。
たしぎの姿を、これ以上見ていられないとばかりに、ゾロは立ちあがった。
「今、ローを追って、ルフィがそこの施設の中に入った。
あいつに頼んでみるってぇ話しだ。
お前ら、ここで、その身体、守っておけ。
心臓、取り返してきて、」
「海賊に、情けなどかけられる筋合いはないっ!!!」
ゾロの言葉をさえぎって、キッとあげたたしぎの顔が、
胸に突き刺さる。
「・・・勝手にしろ。」
そう言い残すと、海兵たちをその場に残し、
一人、ルフィ達の後を追った。
******
いつまで経っても、埋まらない溝。
あいつは海軍、オレは海賊。
何も、助けてやる義理はねぇ。
頭を振って、忘れようとするが、
情けはいらぬと、言い放ったたしぎの顔が
頭に焼きついて離れない。
こんな得体の知れない地に、女一人。
どうにもならない想いが、ゾロを苛つかせていた。
〈続〉