episode9 前編


「おいっ!待てよ!」

ルフィは、施設に姿を消すローに向かって叫ぶ。


ルフィ達は、ローの近くに倒れていたスモーカーの姿を認めた。
いろいろと質問責めにしたのが気に障ったのか、
ろくに答えもせずに、背を向けて立ち去ってしまった。

「おい、ケムリン、大丈夫なのか?
 死んでねぇよな。」

ゾロに確認するように、ルフィが問う。

スモーカーの元に近づいて、身体を起こす。
「心臓が抜き取られている・・・」
信じられない状況に、ゾロも息を呑む。

「・・・息はあるようだ。
 こんな状況で、生きていられるなんて、これがローの能力なのか?」
得体の知れない悪魔の実の力に、ゾロは眉をひそめる。

「とにかくあいつに聞いてみないと、わかんねぇな。」
ルフィが腕を組んで、不満げな顔をする。

「そんな物騒な奴、近づきたくねぇな。」
ウソップが震えながら呟く。

「オペオペの実。その指定されたエリアの中では、
 自由に人の身体を切ったりくっつけたりすることが出来る・・・
 確か、そんな能力。」
ロビンが思い出しながら、皆に伝える。

「とにかく、あのままじゃ、ケムリン死んじまう!
 ローに、元に戻してくれるように、頼んでみる。」

「そう簡単にいくかしら?」

「言ってみなきゃ、わかんねぇだろ。行くぞ!」
ルフィが駆け出す。

「おぃ、でも、スモーカーの身体、このままほっぽって
 いいのか?凍っちまうぞ。」
ウソップが慌てて聞く。

「かえって、腐らなくて調度いいわ。ウジもわかないでしょうし。」

「おめー、こえーよっ!!!」
涙目のウソップ。

「あ、私も、身体、冷凍保存できたたらよかったんですねぇ。」
ブルックが、空を仰ぐ。


そこへ、部下に支えられながら、たしぎと海軍達が戻って来た。

「おい!海軍だ!やべーよ。俺達の仕業だと思われちまう!」
ウソップが騒ぎ出す。




ゾロが、叫ぶ。

「先に行ってろ!ルフィ。こいつの身体海軍に預けて、すぐに追い付く。」

「わかった、ゾロ。行くぞ、みんな。」
ルフィを先頭に走り出し、施設の中へ入っていく。

「ちゃんと、追いつくかしら?ゾロ。」
ロビンが気にしながら、続いた。



*****




ゾロは思い出していた。
倒れたスモーカーに駆け寄るたたしぎを。

大きく開かられた瞳は、スモーカーを見つめたままだ。

「生きてる。」
ゾロの言葉に、膝からその場に崩れ落ちる。


「大丈夫か?大佐ちゃんっ!まだくっついたばかりだ、無理すんじゃねぇよ。
 スモやんは、死んだりしねぇ、しっかりしろ。」
たしぎに続いてやってきた海軍たちが、声をかける。

「あいつに、斬られたのか?」
海兵たちの話から、ゾロが尋ねる。

「・・・笑えばいい。斬られて尚、生きながらえている・・・」
たしぎは、悔しそうに、顔を背ける。

「あいつは、強すぎる。俺達じゃあ、歯が立たねぇ。」
「軍艦だって、バラバラにされちまった。」
戦闘の様子を思い出し、身震いする海兵達。



「スモーカーさん・・・」
溢れる涙を隠そうともしないで、たしぎがスモーカーの身体を胸に抱える。

ゾロは、その様子を複雑な気持ちで見つめていた。

「私が、弱いばっかりに・・・」
噛みきれんばかりに強く噛んだ唇から、
こらえきれない嗚咽が漏れる。

たしぎの姿を、これ以上見ていられないとばかりに、ゾロは立ちあがった。


「今、ローを追って、ルフィがそこの施設の中に入った。
 あいつに頼んでみるってぇ話しだ。
 お前ら、ここで、その身体、守っておけ。
 心臓、取り返してきて、」

「海賊に、情けなどかけられる筋合いはないっ!!!」
ゾロの言葉をさえぎって、キッとあげたたしぎの顔が、
胸に突き刺さる。




「・・・勝手にしろ。」

そう言い残すと、海兵たちをその場に残し、
一人、ルフィ達の後を追った。





******




いつまで経っても、埋まらない溝。
あいつは海軍、オレは海賊。

何も、助けてやる義理はねぇ。

頭を振って、忘れようとするが、
情けはいらぬと、言い放ったたしぎの顔が
頭に焼きついて離れない。

こんな得体の知れない地に、女一人。

どうにもならない想いが、ゾロを苛つかせていた。



〈続〉