不機嫌な王様 1




宴会島。

正式な名前を覚えている者は少ない。
誰もがぞう呼んでいた。

世界中から、宴会を目的に人が集まってくる。
年末、年始、お盆にクリスマス。
季節の節目を問わず、年がら年中賑わっていた。

海軍本部G-5の面々も、その中にいた。

「ねぇ、スモや〜ん!いいでしょう?」

「そうそう、ここは宴会島なんだから!」

「久しぶりに、会ったんだから、ここは固いことなしってことで。テヘッ。」

部下たちに説得され、不承不承に頷いたスモーカーは
「お前ら、勝手にやってろ。オレは後ろのほうで一人でやるからな。」
と言い残すと、会場の奥にある個室に引っ込んでいった。


「黒足のアニキ!スモやんの了承が取れました!」
G-5の海兵たちが、喜んで報告しに行った先には、麦わら海賊団のコック、サンジがいた。

「お前ら図々しいにも程がある!」

「だって、アニキの作った料理がまた食べられるなんて!」
「こんなチャンス、めったにありませんぜ!」

「ほんと、俺たちゃラッキーだよな。宴会島で麦わら達と一緒になるなんて!」
「これも何かのご縁ってことで、アニキよろしくお願いします!」
G-5達が、サンジに向かってビシッと敬礼をする。


「ったく、しょうがねぇな。」
そう言いながら、大鍋を振るサンジは
それほど嫌そうな顔はしていなかった。

「あ、そうそう!たしぎちゃんも来るんでしょ!そこ大事だから!」

「もっちろんです!アニキ!わがG-5のマドンナ、たしぎちゃんは
 ちゃ〜〜んとお連れします。」

「了解。何を作ってあげようかな〜!?ふふん♪」
ご機嫌に、次の食材を手に取ると、鮮やかな手さばきで
料理に取りかかる。



「さ、俺たちゃ、会場準備をしようぜ。」
「おう!」
楽しそうに、会場の飾りつけに向かった。



******



「へぇ、ケムリン達もこの島に来てたのか。」
ルフィは、事情を説明に来たG-5の海兵にむかって、
一緒の宴会に快諾の返事をした。

「よし、いいぞ!人数が多いほうが、宴は楽しいもんな。」

「え〜!大丈夫なのかよ、海軍と一緒で。」
ウソップが反対の声をあげた。

それでも、さほど心配な様子でもなく、
出し物のマジックの準備を始めた。

「まぁ、観客は多いほうがいいからな。
 ふふふ、俺様のマジックで、G-5のやつらアッと驚くぜ。」

「そうだな、楽しみだ!」
助手を務めるチョッパーが、ウソップを手伝いながら
目をキラキラさせた。


「音楽に垣根は、ありませんからね〜。」
ブルックは、ヴァイオリンの手入れをしながら 鼻歌を歌う。


「たしぎも来るわよね。」

「でしょうね。」

洋服をとっかえ引っ変えして、選んでいるナミに
傍で読みかけのの本をパタンと閉じると、ロビンが答えた。



「さあ、みんな行くぞ〜!宴だぁああ!」
ルフィを先頭に、麦わらの一味は、会場へと向かった。



*****



「すげえよ、やっぱり世界中の食材が集まってる。
 ナミさ〜ん!ロビンちゃ〜〜ん!待ってたよ〜!」
先に会場入りして、料理を作っていたサンジが迎える。


「麦わらの〜!早く始めようぜ!」
G-5達も、一味の到着を待ちかねていた。


「なんだ?オレぁ聞いてねえぞ、海軍が一緒だなんて。」

後ろから来たゾロが、あくびをしながら、文句を言う。

「アンタ、寝てたでしょ。」
ナミが悪戯っぽく笑う。


ちぇ。

「しょうがねぇな、めいっぱい酒持って来させろ。」



そんな中、始まった宴は、予想以上に盛り上がり、海賊と海軍が
入り乱れての大騒ぎとだった。



******


「たしぎ!」

ひときわ明るい声で呼びかけたのは麦わらの一味ナミだった。


「どう?元気にしてた?」

「ええ、ナミも元気そう。相変わらず噂は聞くけど。」

「まぁね、船長がアレだから。」


ナミのいうアレこと麦わらのルフィは、さっきから
すごい勢いで料理をたいらげ、大声で笑っている。
ほんとに、いつ見ても、騒がしい。

たしぎは、その様子を見てクスっと笑う。
ナミの心配は絶えなさそうだ。


「あ、モチャたちの写真見ます?
 海軍の療養施設で撮ったものです。」

「え、ほんと?見る見る!」

たしぎは鞄から写真を取り出すと、ナミに差し出した。

「みんな、元気そう。」
ロビンも隣から覗き込む。



ふと、会場の奥の緑色の髪の男を視界にとらえる。
宴が始まってから、ずっとその場にいる。

G-5の部下達が入れ替わり寄ってきては
酒を酌み交わしているようだ。

バカ騒ぎをするような男ではないと思うが、
今日は、なんだか不機嫌だ。


もう少し楽しそうな顔をしたらいいのに。




たしぎは、その原因が自分にあるとは知らずにいた。




〈続〉