3 かさねた手



「生きてたんですね。」


そう言ってたしぎがゾロの背中に手を廻したのは、
突然の夕立を避け、身を寄せた大木の下だった。


*****


麦わらの一味が、ジャヤで、消息を絶ったと聞いた。
捜査によれば、空島を目指していたという。
まさかとは思ったが、彼らの足取りが全く掴めない。

じっと待機する日が続いた。


そんな中、やっと麦わら達の目撃情報を得て、
出向いた島で、ゾロの姿を見つけた。

「ロロノアッ!」
呼び止められ、振り返ったゾロは、
一回りも大きくなったように感じた。
青いタンクトップから伸びる腕も、胸板も
筋肉で盛り上がっていた。

無言で見つめ合う二人を
突然の夕立が襲った。

「もう雷に、打たれんのはゴメンだ。」
と言うゾロに手を引かれ、木の下に逃げ込んだ。


先に手を伸ばしたのは、たしぎだった。
身体が勝手に動いていた。


自分の気持ちに気づいたものの、
軍に帰れば、やはり、この想いを認めるわけにはいかなかった。
そして、剣の腕をみがき、ロロノアを海賊として捕らえてみせると。
そう決意したはずなのに。

ロロノアの顔をみたら、海軍らしい言葉は何も出てこなかった。

込み上げる安堵感。
あなたが死んだら、私は、何を追えばいいんですか。
ロロノアがいなくなるのが、怖いと思った。




******



「オレは、死なねぇ。」

ようやく口から言葉が出た。

たしぎの柔らかい腕に抱きしめられた途端、
電流が走ったみたいに、動けなくなった。

抱きしめたのも、唇づけたのも、オレからだった。
そんなもんだろうと思っていた。
思わぬ振る舞いに、戸惑いを隠せない。

何で、こんなに心臓が早鐘のように鳴るんだ。

じっと見つめるたしぎの黒い濡れた瞳に囚われる。
そらすことも出来ずに、ただ見つめ返していた。

ゾロの言葉に、たしぎは、すこし安心したように
微笑み、伏し目がちに顔を近づけた。

ぎこちない口づけ。
それでも、懸命に唇を重ね合わせる。

ビリビリと痺れるような感覚に、ゾロは、立っていられなくなりそうだった。

覆いかぶさるように、たしぎを自分の腕の中に抱きしめる。

「ロ、ロロノア・・・苦しぃ・・・」
たしぎに言われるまで、気付かなかった。


******




心地よい、気だるさの中、背中から抱えるように
たしぎを包こみ、ゾロはまどろんでいた。


愛される喜びを知る。
こんなにも、心地よいものなのか。

たしぎは、あたたかかった。
触れる指先も、唇も、肩も背中もわき腹も。
たしぎの熱にあたためられるように、じわじわとゾロの身体の奥から
熱いものが込み上げてきた。

止めようのない、熱い想い。
たしぎは、全て受け止めてくれた。

胸に伝わる伝わるたしぎの鼓動をずっと感じていたかった。


*****


目が覚めると、
ぽつり、ぽつりと、いろんな話をした。
海軍や、麦わら海賊団の話しもしたが、
これからのこととなると、言葉が途切れた。

それでも、充分だった。
ゾロがくいなの話をしたのは、ルフィ以外、初めての事だった。
たしぎは、黙って聞いていた。


ゾロの胸に顔をつけるように寄り添うたしぎの
黒い髪を、ゆっくりと撫でる。

「くすぐったいです。」
たしぎが、顔をあげる。
「ん。」
満ち足りた想いで、笑いあった。



******



離したくねぇ。

思わず口から出た言葉に、
急に照れくさくなり、たしぎに廻した手に力を込める。
黒い髪に顔を埋めた。


たしぎは、目を瞑ったまま、
ゾロの手の上に、自分の手をそっと、重ね合わせた。



******



互いの鼓動を確かめあった夏の日。
他に、何もいらなかった。


〈続〉


やっと・・・