「生きてたんですね。」
そう言ってたしぎがゾロの背中に手を廻したのは、
突然の夕立を避け、身を寄せた大木の下だった。
*****
麦わらの一味が、ジャヤで、消息を絶ったと聞いた。
捜査によれば、空島を目指していたという。
まさかとは思ったが、彼らの足取りが全く掴めない。
じっと待機する日が続いた。
そんな中、やっと麦わら達の目撃情報を得て、
出向いた島で、ゾロの姿を見つけた。
「ロロノアッ!」
呼び止められ、振り返ったゾロは、
一回りも大きくなったように感じた。
青いタンクトップから伸びる腕も、胸板も
筋肉で盛り上がっていた。
無言で見つめ合う二人を
突然の夕立が襲った。
「もう雷に、打たれんのはゴメンだ。」
と言うゾロに手を引かれ、木の下に逃げ込んだ。
先に手を伸ばしたのは、たしぎだった。
身体が勝手に動いていた。
自分の気持ちに気づいたものの、
軍に帰れば、やはり、この想いを認めるわけにはいかなかった。
そして、剣の腕をみがき、ロロノアを海賊として捕らえてみせると。
そう決意したはずなのに。
ロロノアの顔をみたら、海軍らしい言葉は何も出てこなかった。
込み上げる安堵感。
あなたが死んだら、私は、何を追えばいいんですか。
ロロノアがいなくなるのが、怖いと思った。
******
「オレは、死なねぇ。」
ようやく口から言葉が出た。
たしぎの柔らかい腕に抱きしめられた途端、
電流が走ったみたいに、動けなくなった。
抱きしめたのも、唇づけたのも、オレからだった。
そんなもんだろうと思っていた。
思わぬ振る舞いに、戸惑いを隠せない。
何で、こんなに心臓が早鐘のように鳴るんだ。
じっと見つめるたしぎの黒い濡れた瞳に囚われる。
そらすことも出来ずに、ただ見つめ返していた。
ゾロの言葉に、たしぎは、すこし安心したように
微笑み、伏し目がちに顔を近づけた。
ぎこちない口づけ。
それでも、懸命に唇を重ね合わせる。
ビリビリと痺れるような感覚に、ゾロは、立っていられなくなりそうだった。
覆いかぶさるように、たしぎを自分の腕の中に抱きしめる。
「ロ、ロロノア・・・苦しぃ・・・」
たしぎに言われるまで、気付かなかった。
******
心地よい、気だるさの中、背中から抱えるように
たしぎを包こみ、ゾロはまどろんでいた。
愛される喜びを知る。
こんなにも、心地よいものなのか。
たしぎは、あたたかかった。
触れる指先も、唇も、肩も背中もわき腹も。
たしぎの熱にあたためられるように、じわじわとゾロの身体の奥から
熱いものが込み上げてきた。
止めようのない、熱い想い。
たしぎは、全て受け止めてくれた。
胸に伝わる伝わるたしぎの鼓動をずっと感じていたかった。
*****
目が覚めると、
ぽつり、ぽつりと、いろんな話をした。
海軍や、麦わら海賊団の話しもしたが、
これからのこととなると、言葉が途切れた。
それでも、充分だった。
ゾロがくいなの話をしたのは、ルフィ以外、初めての事だった。
たしぎは、黙って聞いていた。
ゾロの胸に顔をつけるように寄り添うたしぎの
黒い髪を、ゆっくりと撫でる。
「くすぐったいです。」
たしぎが、顔をあげる。
「ん。」
満ち足りた想いで、笑いあった。
******
離したくねぇ。
思わず口から出た言葉に、
急に照れくさくなり、たしぎに廻した手に力を込める。
黒い髪に顔を埋めた。
たしぎは、目を瞑ったまま、
ゾロの手の上に、自分の手をそっと、重ね合わせた。
******
互いの鼓動を確かめあった夏の日。
他に、何もいらなかった。
〈続〉