光芒 7



「スモーカーさん!戻ったんですね。」
あれから、随分時間が経ったような気がする。

「たしぎ、お前・・・」
一週間前に別れた時とは、まるで別人だとスモーカーは思った。

「待ってたんですね、すいません。すぐにでも、隊に戻ります!
 あ、でも、お腹すいちゃって、  朝ごはん食べてからでもいいですか?」
「すいませ〜ん!朝のスペシャルセット、大盛りで!」
厨房に声をかけると、スモーカーの前に座った。

「もう、身体がなまってしまって、情けないです。
 スモーカーさん、私、もう大丈夫です。  ご心配おかけしました。」

たしぎの変わりように、スモーカーは言葉が出てこない。

「もうお昼なので、ランチでいいですか?」
そう言いながら、宿屋の主人が料理を運んできた。

「うわぁ、美味しそう!もう、お腹ペコペコで。」
たしぎの様子をずっと見てきた主人は、嬉しそうだ。

食べるのに忙しくて、たしぎの話は要領を得ない。

ただ、もう平気だから、の一点ばりだ。

スモーカーは半信半疑でその言葉を聞いていた。

「あぁ、もうお腹一杯・・・幸せ・・・」
とろけそうな笑顔を向けたかと思った途端、 テーブルに突っ伏した。
「おいっ!たしぎ!どうした!?」
心配して、立ち上がったスモーカーは目を疑った。

静かに寝息をたてている。

「一体、どうしちまったんだ?」

宿の主人に、昨日の夜にたしぎが出掛けていったことを聞いていた。
その前日に、男がたしぎを背負って部屋まで連れてきたことも。

「悪いな。片付けてくれ。」

スモーカーは、たしぎを起こさないように
担ぎ上げると、二階のたしぎの部屋に運んでいった。

ベッドに下ろし、部屋を出る。

下に降りると、何杯目かのコーヒーを頼んだ。


******


スモーカーは昨日の事を思い出していた。

マリージョアからマリンフォードまで、 七武海の護衛がこの一週間の任務だった。

守るような相手ではなかったが、
海軍としてのないがしろにしていないという 意思表示でもあった。

何度か顔を合わせた七武海の一人、鷹の目のミホークと 話す機会があった。

デッキで、船室の壁に寄りかかり、 海を眺めているミホークの傍に立つ。

「鷹の目、一つ聞いてもいいか?」
「かまわぬ。」
「ウチの部下の話だ・・・なんだか、いろいろ考えこんじまって、  今、戦えなくなっちまってる・・・。」

スモーカーは、一旦言葉を切って、葉巻を咥え直す。

「剣士ってのは、刀を置いては生きていけねぇもんなのか?」

葉巻の煙が漂う。

腕を組んだミホークの顔は帽子の下に隠れている。

「生きていけぬのではない。死ぬまで離れらぬのだ。」

スモーカーは、そう言い放つミホークの顔を凝視する。

「携えて生きるのも地獄、置いて生きるのも地獄であろう。」

何も言えなかった。

「案ずるな。答えなど自ずから見つけてくる。  いずれ悟るであろう。」

達観したような物言いに、スモーカーの声が大きくなる。

「だがな、上を見ればきりがねえだろ!
 いつまでたっても、たどり着けないんじゃ、心が折れる。
 そこまで、強くならなきゃいけねぇ理由なんかねぇ。」

「それが、そやつの望みか?」

「・・・・」

強くなりますよ。言い続けるたしぎの顔が浮かぶ。

「その一点でしかないのだ。刀を振るう理由など。」

気づいても地獄、気づかずにいても地獄か・・・

ミホークの脳裏に、自分の心の内を認めようとしない弟子の顔が浮かんだ。


*******


鷹の目の言うとおりになった。
自分で答えを見つけたというのか。

スモーカーは釈然としないまま、椅子から立ち上がった。
首をぐるりと回すと、新しい葉巻を手に取る。

出発は明後日との伝言を宿の主人に頼むと、スモーカーは外に出た。



〈続〉




H25.10.26