「スモーカーさん!戻ったんですね。」
あれから、随分時間が経ったような気がする。
「たしぎ、お前・・・」
一週間前に別れた時とは、まるで別人だとスモーカーは思った。
「待ってたんですね、すいません。すぐにでも、隊に戻ります!
あ、でも、お腹すいちゃって、
朝ごはん食べてからでもいいですか?」
「すいませ〜ん!朝のスペシャルセット、大盛りで!」
厨房に声をかけると、スモーカーの前に座った。
「もう、身体がなまってしまって、情けないです。
スモーカーさん、私、もう大丈夫です。
ご心配おかけしました。」
たしぎの変わりように、スモーカーは言葉が出てこない。
「もうお昼なので、ランチでいいですか?」
そう言いながら、宿屋の主人が料理を運んできた。
「うわぁ、美味しそう!もう、お腹ペコペコで。」
たしぎの様子をずっと見てきた主人は、嬉しそうだ。
食べるのに忙しくて、たしぎの話は要領を得ない。
ただ、もう平気だから、の一点ばりだ。
スモーカーは半信半疑でその言葉を聞いていた。
「あぁ、もうお腹一杯・・・幸せ・・・」
とろけそうな笑顔を向けたかと思った途端、
テーブルに突っ伏した。
「おいっ!たしぎ!どうした!?」
心配して、立ち上がったスモーカーは目を疑った。
静かに寝息をたてている。
「一体、どうしちまったんだ?」
宿の主人に、昨日の夜にたしぎが出掛けていったことを聞いていた。
その前日に、男がたしぎを背負って部屋まで連れてきたことも。
「悪いな。片付けてくれ。」
スモーカーは、たしぎを起こさないように
担ぎ上げると、二階のたしぎの部屋に運んでいった。
ベッドに下ろし、部屋を出る。
下に降りると、何杯目かのコーヒーを頼んだ。
******
スモーカーは昨日の事を思い出していた。
マリージョアからマリンフォードまで、
七武海の護衛がこの一週間の任務だった。
守るような相手ではなかったが、
海軍としてのないがしろにしていないという
意思表示でもあった。
何度か顔を合わせた七武海の一人、鷹の目のミホークと
話す機会があった。
デッキで、船室の壁に寄りかかり、
海を眺めているミホークの傍に立つ。
「鷹の目、一つ聞いてもいいか?」
「かまわぬ。」
「ウチの部下の話だ・・・なんだか、いろいろ考えこんじまって、
今、戦えなくなっちまってる・・・。」
スモーカーは、一旦言葉を切って、葉巻を咥え直す。
「剣士ってのは、刀を置いては生きていけねぇもんなのか?」
葉巻の煙が漂う。
腕を組んだミホークの顔は帽子の下に隠れている。
「生きていけぬのではない。死ぬまで離れらぬのだ。」
スモーカーは、そう言い放つミホークの顔を凝視する。
「携えて生きるのも地獄、置いて生きるのも地獄であろう。」
何も言えなかった。
「案ずるな。答えなど自ずから見つけてくる。
いずれ悟るであろう。」
達観したような物言いに、スモーカーの声が大きくなる。
「だがな、上を見ればきりがねえだろ!
いつまでたっても、たどり着けないんじゃ、心が折れる。
そこまで、強くならなきゃいけねぇ理由なんかねぇ。」
「それが、そやつの望みか?」
「・・・・」
強くなりますよ。言い続けるたしぎの顔が浮かぶ。
「その一点でしかないのだ。刀を振るう理由など。」
気づいても地獄、気づかずにいても地獄か・・・
ミホークの脳裏に、自分の心の内を認めようとしない弟子の顔が浮かんだ。
*******
鷹の目の言うとおりになった。
自分で答えを見つけたというのか。
スモーカーは釈然としないまま、椅子から立ち上がった。
首をぐるりと回すと、新しい葉巻を手に取る。
出発は明後日との伝言を宿の主人に頼むと、スモーカーは外に出た。
〈続〉