光芒 epilogue1



ゾロとミホークを乗せた船が クライガナ島に到着した。

薄暗い森を歩く。

「なんか、城の方、明るくねぇか?」

「うむ。」

森の木々の隙間から、時折漏れるオレンジの明かり。
いつもは、ひっそりとしている城の方が、なんだか騒がしい。
かといって、不穏な空気も感じられない。

二人とも、首をかしげながら進んでいく。

森を抜け、目の前に城が姿をあらわした。
オレンジ色の提灯が連なるように飾られている。
いたるところにかぼちゃが置いてあり、ろうそくが灯っている。
オレンジ、紫、ピンクに、黒と、毒々しい色使いがなんとも不気味だ。

「なんだ?これは!」
ゾロが声をあげる。

ミホークは眉をひそめた。


「ハロウィーンだよ!」

空から声が聞こえたかと思うと、オバケちゃん達を引き連れて
ペローナが飛んで来た。

オレンジのリボンがアクセントの黒いドレスに、小さいコウモリの羽をつけ、
嬉々として飛び回っている。

ゾロが呆れて口をあんぐりと開ける。

二人の前に、ペローナ本体が現れた。


どんっ!

体当たりをくらわすような勢いで、ゾロに抱きついた。

「お前!もう大丈夫なのか!?」
心配そうに、傷を覗き込む。

「いてぇなっ!」
ゾロはペローナの腕をつかんで、引きはがす。



「今日はハロウィーンだろっ!この一大イベント、何忘れてんだ!」
忘れてるもなにも、知らねぇっての。

「この、不気味な雰囲気、この城もいい感じに飾り付けできただろ!」
 ホロホロホロ〜〜〜♪」
満足げに飾り付けを眺め、おもむろに手を差し出す。
「ゾロ、Trick or Treat だ!」

「は?なんだそりゃ。」
首をかしげるゾロ。

「お菓子をくれないと、いたずらするぞ、か。」
ミホークが横から説明する。

「そうだ!」

「ゾロ!Trick or Treat だっ!」

「お菓子なんか、なんも持ってねぇぞ!」
付き合ってられるか、子供の遊びなんかに。

「なんだと!そんなら、目にもの見せてやるぞ!」
ペローナの目がきらりと光る。
嬉しそうだ。

このままだと、もの凄く嫌な予感がすると、 ゾロは焦る。

「そうだっ!甘いもんじゃねぇけど、これ、土産だ。」
咄嗟にマリンフォードでミホークに持たされたブローチを思いだし、
取り出して、ペローナに差し出した。

目を丸くするペローナ。

心底、驚いたようだった。

「な、なんだ?これは・・・」

「気に入らねぇか?お前、光るもん好きだろ。ほらっ。」

ソロに促されて、ブローチを手に取る。

ペローナの手の中のブローチは 月明かりに照らされて、きらめいている。


助かったと思い、ミホークをちらっと見る。

ペローナの様子に、ミホークも満足げだ。

「鷹の目からだ。」

ゾロの言葉は、届かなかったようだ。

ペローナはさっそくドレスに着けて、手鏡に映して自分の姿を眺めている。


「ふふふ、気に入ったぞ、ゾロ。さぁ、早く中に入れ。
 かぼちゃづくしの料理が待ってるぞ。」

「それより、酒だ!」

「うるさいっ!」
ペローナが先に歩き出す。

「かぼちゃかぁ、天ぷらが旨いな。」

「パイに、シチューにコロッケだ!」
二人でやりあいながら、先に進んでいく。

「赤ワインにかぼちゃか・・・悪くない。」
ミホークは髭をさすりながらついて行く。


ペローナの手には、 ハロウィーン仕様の隻眼のクマシーが抱かれていた。


******


ペローナ一人はしゃいでいたような宴が終わり、
ゾロが食器を片づけていた。

「なぁ、本当にもう平気なのか?」

振り返ると、キッチンの入り口に、ペローナが立ってこっちを覗いていた。

「あぁ、もう何ともねぇ。」
答えると、シンクに向き直り、皿を洗い出す。


ペローナがそのまま佇んでいるのは気配でわかった。

水を止め、ゾロは振り返る。

「心配かけたな。」

「べ、別に・・・どうせお前のことだから、大丈夫だって、
 心配なんか・・・」

ドアによりかかり、横を向く。


頭をがりがりと掻くと、ゾロはおもむろに手を差し出した。

え? という顔で見上げるペローナ。

「Trik or Treat だ!」

「ええ?お菓子なんか、持ってね〜ぞ!」

「じゃあ、いたずらするぞ!」
ニヤッと笑うと、ゆっくりとペローナに近づく。
その不敵な笑みに、ペローナは思わず後ずさる。

「わっ、ちょっ、ちょっと待て!」
さながらオオカミ男のように、ガオーッと吠えると 捕まえようと両手をあげる。

「冗談だろっ!や、やめろ〜〜〜!!!」
ペローナは、走り出した。

「待て〜〜!」

城内を二人の走りまわる足音と、ペローナの悲鳴が響く。


逃げまわりながら、ペローナは、ゾロが柱や壁にまったくぶつかることなく
駆け回っているのに気づき、本当に感覚が戻ったことを知る。

よかった。

戸棚の陰に座り、ホロウを飛ばしていると、ガチャと部屋の扉が開いた。


「みぃ〜つけたぞ〜〜!!!」

「ギャー!!!!」


******


「騒がしい・・・」

部屋でグラスを揺らすミホークは、こめかみを押さえると、立ち上がる。

「少々、灸をすえるか。」

窓ガラスに映ったミホークの姿は、まさにドラキュラ伯爵だった。



*****


「こえ〜〜よ!鷹の目・・・」

その夜、夢の中、涙目でうなされるペローナが不憫だった。


fin.



H25.10.31