そこは、ずっと続く砂浜の海岸で、大勢の海水浴客で賑わっていた。
その一角を、幕で覆い、プライベートビーチのように使っている一団がいる。
今日は、海軍の夏の宿泊研修。
一泊二日で、水泳訓練が行われる。
グランドラインのとあるリゾートビーチ、訓練研修とは言うものの、
軍の福利厚生を兼ねた慰安旅行である。
スモーカーとヒナの部隊は、示し合わせたように同じ日程で、
この研修に申し込んだのだった。
一日目の午前中は、遠泳をすることになっている。
その後は、各々ビーチバレーやスイカ割り、
夜はバーベキューに花火も予定されている。
遠泳が終われば、後はお楽しみという訳だ。
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「みなさ〜〜ん!これからあの沖のボートまで泳いで行き、
折り返して戻ってきます。距離は10km。各自、自己ベストタイムを
目指してください。なお、具合の悪くなった者は、近くの追従ボートにいる者、
または、一緒に泳ぐサポートに声を掛けてください!以上、何か質問は?」
海兵達に、説明しているのは競泳水着姿のたしぎだ。
それぞれの隊長は、共に能力者。海で泳ぐことに関しては何も出来ないので、
たしぎが、代理で取り仕切っている。
浜辺に張ったテントの中で、座って部下の泳ぐ姿を何やら談笑しながら
見守っている。
スタートの号令とともに、海兵たちが一斉に海に入る。
たしぎは、一番後からゆっくりスタートする。
毎日船に乗ってはいるが、海で泳ぐ機会は、めっきり少なくなった。
ゆっくり、ゆっくり泳いでいると小さい頃を思い出す。
一日泳いでも、飽きなかった。
小さい海辺の町で育ったたしぎには、海は常に側にあるのが普通だった。
大きなうねりに身を任せていると、海に、いだかれているようで幸せな気分になる。
知らず知らずのうちに、微笑みながら泳いでいた。
「たしぎ曹長!大丈夫ですか?」
サポートのボンベをしょった部下に声を掛けられ、はっとする。
どうやら、だいぶ遅れをとったようだ。
「あ、大丈夫です。すいません。」
いけない、訓練中。
少し泳ぐスピードを上げる。
たしぎが浜に帰り着いた時には、皆、陸に上がり、身体を休めていた。
たしぎは、腰を下ろすことなく、待っていた部下達に、遠泳訓練の終了を告げた。
歓声が上がる。
昼食後は、イベント目白押しだ。はしゃぐ部下たちの気持ちもよく分かる。
たしぎも自然に笑顔となる。
テントに行き、スモーカーとヒナに、訓練の終了を報告する。
「ご苦労。」
「ご苦労様、たしぎ。」
テントに用意されていた昼食を一緒に取る。
スモーカーとヒナは、泳ぎはしないが、二人とも水着を着ていた。
ヒナは、つばの広い帽子を優雅に被り、サングラスを掛けている。
水着は、髪の色より濃いビビットなピンクのビキニ。
腰には華やかな南国の鳥が描かれたパレオを巻き、
腕には、色とりどりのブレスレットが幾重にも巻かれている。
なんだか、そこに居るだけで周りが華やぐようだった。
スモーカーもサングラスにパナマ帽。
長めの水着は、黒にサンセットの柄。鮮やかなオレンジ色のグラデーションが映える。
きっとヒナの見立てだろう。
二人並ぶと、ここが何処かの大金持ちの屋敷の一画のように思える。
思わず、葉っぱの団扇で扇いであげたくなってしまい、笑ってしまった。
「たしぎ。ちょっと手伝って。」
ヒナに声を掛けられ、立ち上がる。
ヒナが抱えてきた荷物を、一緒に運んだ。
「ありがとう。」ヒナが意味ありげに微笑む。
たしぎが荷物を置いて、身体を起こした瞬間、ヒナと身体が触れる。
「あら、ゴメンなさい。引っかかっちゃったわ。」
ヒナの腕輪が、たしぎの水着に引っかかり、わき腹の所が破れてしまった。
「大変!競泳用だし、生地が薄いから、すぐ穴が大きくなっちゃう。
着替えほうがいいわ。」
ヒナがすまなさそうに言う。
「あ、平気ですよ。上からTシャツ着ますから。」
「あら、駄目よ。せっかくの海なんだもの。Tシャツなんか、野暮ったいわ。」
そんなの許さないわよ!といような剣幕で、否定され、慌ててたしぎは答える。
「で、でも、替えの水着なんて、持ってないし・・・。ほんと、大丈夫です。」
「水着なら、私が持ってるわ。競泳用のもあるし、着て頂戴。」
「え、そんな・・・」
遠慮するたしぎに構わず、ヒナは更衣室を兼ねたテントにたしぎを連れていく。
助けを求めるように、視線を送ったスモーカーは、顔を合わせないように、そっぽを向いていた。
たしぎが、ヒナの企みに気づいたのは、タオルと一緒に渡された、
片手に握れるほどの小さいビキニを見た時だった。
「えぇ、え〜〜〜〜〜っ!!!!」
たしぎの叫び声が響き渡った。
〈続〉