ヒナさ〜〜〜ん!!!
どこ行っちゃったんですか?
ひどいじゃないですかぁ〜!
たしぎが手にした水着は、白いビキニ。
背中と首の後ろを結ぶ形で、腰の所も紐になっている。
顔が青ざめるのが自分でも分かった。
着ている水着を見ても、やはり破れた箇所は大きくなっていて、
このまま着ていたら、もっと大変な事になりそうだ。
はっとして、羽織っていたパーカーを探したが、既に遅かった。
たしぎの元には、時雨しか残されていない。
謀られた・・・。
ヒナの喜ぶ顔が浮かぶ。
これを、着るしかないようですね。
いつまでも此処にこうして居る訳にはいかない。
覚悟を決め、水着を身につける。
目の前に、鏡がないことが救いだった。
******
そ〜〜っと、テントの出入り口から顔だけを出すと、キョロキョロと辺りを見回した。
とたんに、マシカク軍曹に声を掛けられる。
「たしぎ曹長!こんな所でなにやってんすか?
はやく!ビーチバレー大会が始まりますよ!」
「あっ、あの、急に用事が出来て・・・誰か代わりに、お願いします。」
「えっ、そんな駄目ですよ。皆んな待ってますから。」
どうにも逃れられそうにない。
ゆっくりと、時雨を握り締めて、テントから出る。
「ちょっと、アクシデントで・・・」
たしぎの言い訳は、マシカクの耳には届いてなかったようだ。
口をあんぐりと開けて、固まっている。
耐えられなくなったたしぎは、
「宿に戻って、着替えてきますっ!!!」
と言うと、足早にその場から、歩きだした。
海兵達の視線が突き刺さる。
顔が火照って、前がよく見えない。
とにかく、海兵達が居ない所に行こうと、幕の間から、するりと外側に抜け出した。
浜辺には、一般の海水浴客が大勢いた。
これで、少しは目立たない、とホッとするも、
刀を持った水着の女など、やはり目を引くのだろう。
歩くたびに、視線を感じた。
人の居ない所、居ない所と、目指して歩いていく内に
気がつけば、だいぶ人のまばらな、海水浴場の端にいるのようだ。
宿に戻るつもりだったのに、だいぶ遠くまで来てしまった。
少し落ち着いて、周りを見る余裕ができた。
まだ、顔が熱い。
此処は岩場の影になっていて、海軍のいる浜辺からは、丁度隠れるような場所だ。
人混みを避けて、こんな所で楽しんでいる一団もいるようだ。
「そこの、おねえさ〜〜〜ん!よかったら、こっちに来て、
飲み物でも、一緒にどうですか〜〜〜?」
急に声を掛けられて跳ね上がる。
振り向くと、お盆にグラスを載せてこっちに近づいてくる
麦わらの一味の黒足のサンジだった。
え?なんでこんな所に!
「あれ?ローグタウンでお会いした、海軍のお姉さんじゃないですか?
いやぁ〜〜、もう、ビキニが素敵すぎて誰だか分かりませんでしたぁ。」
ニコニコして、嬉しそうに近寄ってくる。
海軍に出くわしたというのに、何とも思わないのか。
こういう場合、海兵として取るべき態度は、と、躊躇してしまった。
我に返り、時雨に手をかける。
しかし、その決意も、すぐに翻されれてしまう。
「お〜、酒まだか?」
ゾロの声がした。
「まったく、俺が話してると、すぐこれだ。」
サンジの背後から、近づいてくる男の気配がする。
「おい、何、油売ってんだよ。」
「うっせーなっ!」
サンジが身体をずらして振り向くと、たしぎの目の前にゾロが立っていた。
「・・・・」
ゾロは、たしぎの持っている時雨を認めると、二度、刀と顔を見返した。
「お、おまえ・・・」
たしぎの視界の端に、サンジの笑い顔が見えた。
頭の中が、真っ白になったたしぎは、何も言わずに、くるりと背を向け、歩き出した。
な、なんで、ここにロロノアが!
ロロノアに、この姿が見られたことが、恥ずかしかった。
「あ〜〜あ、行っちゃた。せっかく誘ってたのに。
お前が邪魔すっからだろ。
しっかし、可愛いなぁ。あれじゃあ、これから何人に声掛けられるか。大丈夫かなぁ?
なんか、あの水着、紐が緩んでたし、あの様子じゃ、解けるまで気付かないんじゃないの。」
「あ、俺、ちょっと教えてあげよっと。これ、持っとけ。」
サンジがお盆を差し出そうとすると、それを無視し、ゾロは無言で、たしぎの後を追って歩き出していた。
〈続〉