もう少しこのままで 2




「2階に行こう。」
ゾロに言われて、たしぎは急に緊張した。

風呂から上がった後、ゾロは入るように勧めてくれたが たしぎは遠慮していた。

それじゃ、まるで・・・

あれこれ考えて、たしぎは落ち着かなかった。


ゾロの後に続いて、階段を上ると 部屋に入った。

和室にカーペットを敷き、ベッドと机がある。
カラーボックスの上にスピーカーが置いてあった。

居間に比べて、少し散らかっている部屋に、 たしぎは少し安心した。

ここが、ロロノアのくつろげる場所なんだ。

「わぁ、ロロノアの部屋だぁ。」
なんとなく、はしゃいでみせる。

「さっき必死で片付けたんだよ。
 ベッドの下とか、押入れは見るなよ!」

「は〜い。」と言いつつ、ベッドの下を除けば、 なにやら詰め込まれていた。

「あ、こらっ!」
「ふふふ。あやしい〜〜!!!何隠してんの?」

焦るゾロの顔は、子供の頃と変わらず可愛いかった。

「うそ、うそ。見ないから。」
たしぎは、笑ってベッドに寄りかかるように座った。

一緒に持ってきたお茶をミニテーブルに置くと、
ゾロは、携帯音楽プレーヤーをスピーカーにセットして 曲をかける。

先にスイッチを入れてくれてたらしく、エアコンの効いた部屋は暖かかった。
それでも、隣に腰を下ろすゾロの体温を感じた。

「あ、あれ食べていいか?」
「どうぞ、どうぞ!」

ゾロは、ファミレスでたしぎから貰ったチョコレートを バッグから取り出した。

張り切って、都心のデパートの催事場まで足を運んだのだ。

たしぎの苦労も知らずに、無造作に包みを開けると
ゾロは、つまんで口に放り込んだ。

「ん、んまい。」

「ほんと?なんとかっていうショコラティエの人が作ったんだよ!」

ゾロが、たて続けにチョコを口に入れる。
「あぁ、もう、ちゃんと味わって食べて!」
その横顔を見ながら、たしぎが抗議する。

ふっと、ゾロが笑ったような気がした。

「おまえなぁ、横でぎゃあぎゃあ煩いんだよ。味見するか?」

たしぎの返事も待たずに、ゾロの手が首に廻された。

不意に近づくロロノアの顔と、口に広がる甘さ。
「んんっ!」

抗議する間もなく、舌が捕らえられた。
口中に、甘くねっとりとした感触が広がる。

重なり合う甘い唇。


漏れる自分の吐息に、急に鼓動が速くなる。

ゾロの指先が、耳の後ろを這うように首をなぞっていく。

待ちわびた想いが、強引さに変わっていた。

背中に手が廻り、力一杯抱きしめられた。

ロ、ロロノア・・・

離れた唇からは、声が思うように出てこない。
「あふ・・・ん・・・」

熱いゾロの手が、たしぎの背中をさするように移動する。
密着する身体が、火照り始めた。

抱きしめられたまま、たしぎの肩にゾロの頭が乗っかる。


たしぎは、おずおずとゾロの背中に手を伸ばした。


「もう少し、このままでいいか?」

「・・・うん。」


「あったけぇ。」

安心したように、目を閉じるゾロ。



次第にゾロの身体が重くなる。

支えきれなくなったたしぎは、思わず声をかけた。

「ロロノア?」


返事はなく、耳を澄ませば規則正しい息遣いが響く。

ズルッ。

たしぎが手を緩めると、崩れ落ちるようにゾロの身体が のしかかった。


背中に廻されたままの手から力が抜けていく。

たしぎは、しばらくゾロの身体の重みに身をまかせて 目を閉じていた。


ロロノアの方こそ、疲れているのに・・・

ごめんね。


愛おしい想いに満たされる。


風邪、ひかないでね。


たしぎは、ゾロの身体の下からそっと上半身を起こすと、 ベッドの布団を引っ張った。
枕も頭の下に差し入れる。

「んん・・・」

漏れるゾロの声に、ドキリとする。


見下ろすゾロの寝顔は、無防備で あどけなかった。

そっと髪を撫でる。

「どうしよう・・・好き・・・」


顔を近づけると、頬に触れるようにキスをした。


たしぎは、ゾロの横に身体を滑り込ませるように 一緒の布団に入った。

ゾロの体温を感じていたくて、身体を密着させると 静かに目を閉じる。


きっと、遠くない未来に、
こうやって同じ布団で、眠って朝を迎える時が来るだろう。


少しの不安と期待を胸に、たしぎは眠りについた。


〈続〉



 H28.2.15