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「 ― あぁ、わかった。じゃあ、また・・・」
ゾロは、釈然としない思いで、電話を切った。
どさりとクッションに仰向けに、沈み込んだ。
これで二度目だ。
週末のデートをたしぎに断られた。
夏休み、一緒にこの部屋で過ごしてから、もう三週間も経っていた。
お盆に、帰省してから戻ってすぐ、ゾロは合宿、たしぎは研修で
お互い忙しかったのは確かだ。
それでも、大学はまだ夏休み中で
会う時間なんて、いくらでも作れると思っていた。
あい間に、たしぎが見たいと言った映画を二人で見に出かけた。
ロード トゥ 何とか・・・
アクション映画なんて見るのかなんて、思ったけど
楽しかった。
その帰り、食事をして、電車だったから
たしぎのアパートまで送っていった。
そのまま部屋に、って期待したけど、
次の日早いからと言って、別れ際にキスしただけで終わった。
なんだか逃げるように部屋に入っていった姿が
気になった。
9月に入って、陸上の記録会やなにやら
週末は行事が詰まってきた。
学校が休みのうちに、なんとか・・・
もう一回ぐらいは・・・抱きたい・・・・
ふと、不安にになる。
何かまずいことしちまったのか?
夢中で、全然、余裕なかったもんな・・・
考えれば考える程、わからなくなって
ゾロは、頭を抱え込んだ。
******
― ふぅ
たしぎは、ため息をついた。
きっと気を悪くしたよね、今の電話。
ぱふっ。
そばにあったクッションの上に寝転がった。
ロロノア・・・・
目をつぶれば、浮かんでくるのはロロノアの顔ばかり。
あの夜の事が、また心を占める。
比べることなどないと分かっている。
そんなつもりでも、全くなかった。
それでも、経験があるなら、
前との違いは、考えないようにしたって、
どうしても、頭に浮かんでしまう。
スモーカーさんは、優しかった。
ううん、ロロノアが優しくない訳じゃない。
私が知ってるsexは、
ゆっくりと、じんわりと気持ちよくなるような感じ。
でも、でも・・・
あんなに、激しいなんてぇ――――
頭の中が、ショートしたように何も考えられなくなる。
思い出しただけで、身体の奥が熱くなって、
じわりと湿り気を帯びるのが分かってしまう。
そんな自分に戸惑いながら、
淫らな想いが、止められない。
口内を這うロロノアの舌。
節くれだった指に、ギュッと身体を掴まれる。
気が付けば、
たしぎは、クッションをギュッと抱き締めていた。
ぼうっと熱にうかされたような顔。
こんな顔で、ロロノアに会えないよ。
******
******
カラン。
ドアのベルが鳴って現れたのはゾロ。
「なんだ、今日は一人か?」
カウンターからサンジの声がする。
「悪ぃかよ、一人で。」
仏頂面で、カウンターにドサリと腰を下ろす。
「ランチ一つ。」
「あいよ。」
サンジは、水の入ったグラスをゾロの前に置いた。
「なに?もう、喧嘩したのか?たしぎさんと。」
無言のまま、肘をついて顔の前で手を組んでいたゾロが、
ギロリとサンジを睨みつける。
「お〜〜、おっかねぇ〜〜。」
おどけたように軽く笑うと厨房に引っ込んだ。
「ごちそうさん。」
空になった皿を前に、ゾロも刺々しい気持ちも
おさまっていた。
「で?」
コーヒーを二人分淹れながら、絶妙なタイミングで
聞いてくるサンジに、ゾロも話してみようという気になるから
不思議だ。
「別に、喧嘩なんかしてる訳じゃないんだが、
なんか避けられてるような感じがする。」
「二人っきりになるのを?」
「いや、デートはしたけど、その後が・・・」
「はぁあん、触らせてもらえないと。」
何が頭の中に浮かんだのか、ゾロが赤くなる。
「なんだよ、そうゆうわけじゃ・・・」
「キスは?」
ストレートなサンジの質問に、ますます赤くなる。
「キスまでは、OKだが、その先はダメってことか。」
肯定も否定もせずに、そっぽを向いてしまったゾロを
笑いをこらえてサンジは上目づかいに見る。
火をつけない煙草を指で持ちながら、この場を楽しんでいるようだ。
からかわれるのはしかたねぇか。
あきらめたゾロが、話し出す。
「オレ、なんかまずいことしたのかと思って。」
「心当たりあるのか?」
「いや・・・特に・・・」
「無理やりじゃねえだろうな。」
「当たり前だ!ちゃんと、声だって・・・」
口を手で覆いながらますます赤面するゾロを
これ以上見てられないというように
サンジの声がくくっともれる。
「わかった、わかった・・・」
ジロッと睨むと、
「お前なら、女の扱いには慣れてるだろうし、
こんな時、どうしたらいい?」
「失礼だな。慣れてるんじゃねぇ、
その度に、真剣なんだよっ!
俺はっ!」
むっとしながらも、横目で真剣なゾロの様子を見て、笑う。
「簡単だろ、そんなこと。」
じっと見つめるゾロを、軽く諭すように身を乗り出す。
「本人に聞いてみるのが一番だろ。」
「・・・・」
ゾロは、何も言わずにコーヒーをすすった。
〈続〉