その島は、春島にもかかわらず、薄暗く、春の陽気さは感じられない所だった。
「なんだぁ?この島。」
食材の買い出しに来ていたサンジとウソップは、顔を見合わせる。
街並は立派だが、夕方だというのに、店はみな閉まっている。
「すいませ〜ん!」
戸をどんどんとたくいて、ようやく顔を出した主人から聞き出したのは、
朔の日の夜は、人々は家から一歩も出ないで過ごすという話だった。
とにかく、明日になれば、店は通常どおり営業するから、出直して来いの
一点張りだった。
仕方なく、二人に船に戻った。
事情をみんなに説明すると、先に船に戻ったロビンが、
こんな話を聞いたと教えてくれた。
この島では、昔から、鵺の鳴くような朔月の夜は、心の闇を吸い取られて、
操られるから、決して外に出てはいけない、と信じられている。
鵺とは、心の隙に入り込んで、それを操る妖怪のようなものらしい。
ロビンの話を聞いて、ウソップとチョッパーは、抱き合って怯えている。
「おれは、一歩も部屋からでないぞ!」
「お、おれもっ!」
ありあわせの食材で作ってくれたサンジの食事は、皆を満足させてくれた。
そして、各々部屋で静かに過ごしていた。
ただ一人、大酒飲みを除いては。
「なんだ、酒もうねェのか?」
「おまえが、ほとんど飲んだんだろっ!」
サンジの蹴りが飛ぶ。
しょうがねぇなぁ。
頭をガリガリかきながら、見張りのウソップに、夜中の交代までには戻ると
告げて、船を降りる。
ウソップの静止も聞かずに。
まったく、店の一つも開いてねえのか。
曇りでもないのに、星の瞬きさえも届かない闇夜、
何やら、遠くの方にぼおっと浮かび上がる赤い光りが目に付いた。
その明りに導かれて、ゾロは、木々が生い茂る林の奥へと進んでいった。
そして、もう一人、麦わらの一味を見かけたとの情報に、
剣士を追うべく、船を降りた海軍少尉、たしぎ。
赤い光りの元をたどって、林の奥をさまよっていた。
〈続〉