逢魔の夜に 3


闇の中、声が聞こえる。
こっちだよ。
その声を頼りに、歩き始める。自分がどこにいるのかさえ、解らない闇の中、 それは、やさしく導いてくれた。
待って、あなたは、誰?
問いかけながらも、声は出ない。
たしぎは、必死で、見失わないように動き続ける。

駄目だよ。心を殺しちゃ。苦しかったら、言えばいい。
苦しいって。
あなたの、心の闇が、狙われたの。
私の、寂しさも、利用されてしまったの。
そして、あいつの、寂しさも。

三人で、莫迦みたいだね。
でも、ありがとう。ゾロに会えたよ。
あなたの瞳から、ゾロを見たかった。
あいつは、ちゃんとあなたを、見てたよ。
安心して。

急に、白い光に包まれた。

今のはなに?

たしぎは目を開けた。


*******


ゾロは、崩れ落ちたたしぎを抱きかかえるように、その場に座り込んでいた。
いつの間にか、細かい雨が落ちてきている。

空が白んで、どうやら夜が明けたようだ。
雨の雫が、ゾロの頬を伝わって、たしぎの頬へ落ちていく。

ふっと息を吸い込んで、たしぎがゆっくり目を開ける。
焦点が徐々にゾロを捉える。

じっとりと汗ばんだ手のひらに力が入る。
恐る恐る尋ねるように、口を開く。

「お前・・・」

「・・・ロロノア、どうして、ここに・・・」

ほっと息をつく。
覆いかぶさるように、たしぎを抱きしめる。
オレの想いが、こいつを変えてしまったのか。
それとも、オレの想いがあいつを呼んだのか。
あの声は、あいつだったのか。
自責の問いをいくら繰り返しても、答えは出て来ない。

暖かい雨が、凝り固まった心をゆっくりと溶かしていく。
たしぎのぬくもりだけが、確かなものだと、感じられる。


******


ゆっくりと目を開けると、ロロノアの顔がすぐ目の前にあった。
ここに、居たんだ。
暖かい雨が、ロロノアを伝わって、落ちてくる。
乾いた心に、すっと染み渡っているようだった。
昨夜から、ずっと探していたような気がする。
やっと会えた。
このぬくもりに、もう少し、このまま身をまかせていたい。


「・・・夢を見てました。」

「・・・オレもだ。」

「声がしたんです。」
たしぎが、遠くを見つめる。
その顔を、ゾロは静かに眺めていた。

「ほれ。行くぞ。」 手をとって、たしぎを引き起こす。
時雨を差し出すと、たしぎは少し不思議そうな顔をして受け取った。
ゾロは、和道一文字を拾うと、鞘に収める。

たしぎを気遣いながらも、黙って歩きだす。ゆっくりと。
たしぎが、後を追う。

「まったく、隙があるから、てめェは。」 ムッとして、たしぎは言い返す。
「そういう、ロロノアだって。」
「オレが、どうしたって?!」

じっとゾロの背中を見つめながら、訴える。
「私は、たしぎです。」

「・・・わかってる。」

「なら、・・・いいです。」
クスッとたしぎが、笑う。 つられて、ゾロも笑う。

雨は霧のように、二人を温かく包み込む。
夜の闇を溶かしていくように。


〈完〉