たしぎは、ヒナから、一本の口紅を貰った。
誕生日プレゼントだと。
「たしぎ、あなた、少しは女を磨きなさいよ。」
この秋の新作らしい。
派手すぎず、深みのあるピンクだった。
これなら、私がつけても大丈夫そうだと、素直に嬉しかった。
さすが、ヒナさん、私の性格をよく把握している。
「ありがとうございます。」
「ふふっ、化粧は女の特権よ。楽しまなくっちゃね。」
ひなの言葉に抵抗を覚えない自分に驚いた。
グランドラインでの数々の航海を経て、なんとなく私は私でしかない、
そう思えるようになっていたのかもしれない。
あの圧倒的な強さの剣士に出会ったからかもしれない。
「ちょっと、つけてみていいですか?」
「もちろん。」そう言って手鏡を貸してくれた。
ぎこちなく、それでもなんとか、紅をひく。
「素敵よ。」にっこりとヒナが笑う。
つられて、微笑む。
「女なんか、綺麗でいられる時なんか、あっという間なんだからね。」
「何、言うんですか。海軍きっての美人のヒナさんが。」
「あら、これでも努力してるのよ。
ほんっと、あんなの待ってたら、おばあちゃんになっちゃうわよね・・・」
ふふふと、楽しそうに笑って、ひなが帰っていった。
なんだか、幸せそうだと、たしぎは思った。
たしぎも自分の船に戻った。
部下たちは、なんとなくやさしかったし、
スモーカーさんは、チラッと見ると、
「ヒナの奴からか?」と聞いてきた。
「はい。」
「ふん、まぁ、刀バカのお前には、少しは必要かもな。」と
ほめているのか、けなしているのか、よくわからなかったが、
自分の変化を皆、気づいてくれたことが、嬉しかった。
たしぎは、こまめに口紅を塗りなおす方でもなく、
朝ひいたきり、夜までそのままという事もよくあったが、
それでも、いつもポケットには貰った口紅をしのばせていた。
<続>