そんな目で、オレを見るな。
おまえがくいなじゃないのは、分かっている。
カチッと刀を鞘に収め、ふっと小さく息を吐く。
顔をあげれば、そこにたしぎがいる。
黒い瞳がオレを真っ直ぐに捉えて離さない。
「これでいいんだろ。」
たしぎの視線を引き剥がすように、言い捨てると、
背を向ける。
早くこの場から、立ち去りたかった。
「待って。」
静かに訴えるその声に、心が揺れる。
無言で振り返ると、困ったようにオレに問いかける。
「どうして、そんな、悲しそうな顔をしてるんですか?
そんな目で・・・私を、見ないでください。」
何も応えられませんから。
あなたの望むものを、私は持っていません。
それでも、あなたが伸ばす手を取りたいと願うのは、
どうしてなんでしょうか。
こいつは、苦手だ。オレの思っていることが何故わかる。
「おまえの方こそ、泣きそうな顔してんじゃねえか!」
隙を見せぬように、たたみかける。
「オレが、なんかしたっていうのか!」
「したじゃないですかっ!」
何も答えられなかった。
「じゃあ、どうすりゃいいんだ?
もう謝ったりしねえぞ、オレは。」
「ちゃんと・・・ちゃんと、私を、見てください。私はたしぎです。」
その言葉に固まる。
「どういう意味だ?」
「私は、あなたの亡くなった親友じゃありません。」
「そんなこと十分わかってる。」
「だったら、もう少し・・・」
「もう少し、なんだ?」
「嬉しそうな顔したっていいじゃないですかっ!!!」
「はっ?な、なんでオレがお前に会って嬉しそうにしなきゃなんないんだよっ!!!」
「私は、生きてるんですからっ!」
突拍子のない論理に、ゾロは、一瞬耳を疑った。
そして、大声で笑いだす。
「た、確かに・・・」笑いすぎて涙が出そうだ。
自分の言った言葉に、急に恥ずかしくなったたしぎは、
顔を真っ赤にしながら、後ずさり、逃げるように離れる。
「私は、ずっとあなたを追い続けますからっ!」
取りようによっては、いろんな意味の言葉を言い残すと、
たしぎは、あっちこっちにぶつかって、すっ転びながら、見えなくなった。
「おい・・・」
なんなんだ、あいつは。
たしぎが消えた方向を見やりながら、しばらく、つっ立っていた。
ふっと、小さく息を吐くと、頭をガリガリ掻きながら、歩き始める。
酒を買いに来んだった。
なんだか、少し気が楽になった。
今度は、いつあいつと出くわすんだろう。
私はたしぎですと言った声が耳に甦る。
たしぎ。頭ン中で繰り返してみる。
嬉しそうにしろだと、自分を傷つけるなだの、いちいちうるせぇ奴だ。
ゾロは笑っている自分に気づいた。
〈完〉
「砂漠に降る雨」を書き直した流れで。たしぎは、ゾロにとって予想外の言動をする相手なのかなぁ。
前作は、
こちらからどうぞ。