ゾロの返事を待たずに話し出す。
「あの・・・どうしても、知っておきたくて。
・・・えっと、寄宿学校に行ってたときも
皆、知っていて、私だけ、経験がなくて。」
「本に書かれているのを読んでも・・・」
「こ、こんなこと、ロロノアにしか・・・」
一向に要領の得ないたしぎの話しに、ゾロは、首をかしげる。
「・・・オレに、どうしろって言うんだ?」
びくっと顔をあげたたしぎは、もうどうにでもなれと思った。
大きく息を吸い込むと、一気に伝える。
「キ!・・・・キ、キスってどんなの?!知りたいのっ!」
思いのほか、大きい自分の声に驚く。
それ以上に、驚いた顔で固まっているのはゾロの方だった。
あまりに、長い間、ゾロが動かずに突っ立ったままだったので
たしぎは、どうしていいかわからなくなった。
「ごっ、ごめんなさいっ!変なこと言って!
今のは、忘れて・・・忘れて下さい・・・」
しぼんでしまった気持ちが、こらえていた心のタガを外してしまったようだ。
大粒の涙がこぼれ落ちる。
「あ、あれ?・・・どうしたんだろう・・・私・・・
なんで、涙なんか・・・」
手の甲で、ぬぐってもぬぐっても、
涙は、はらはらとたしぎの頬を濡らす。
やだ、止まらない・・・
「んっ・・・ぐっ・・・」
こらえきれない嗚咽が漏れる。
そんなたしぎを見つめていたゾロがそっと近づいた。
戸惑いながらも手を伸ばすと、たしぎを抱き寄せる。
たしぎは、よろけるようにゾロの胸に顔を埋めた。
「泣きたいんなら、我慢すんな。」
その言葉に、弾かれたようにたしぎは
声をあげて泣き出した。
うっ・・・うわぁ〜〜〜っん・・・
今まで押さえ込んできた感情が、涙と共にあふれ出す。
ただ、大声で泣きたかったのかもしれない。
抱え込んだ不安も、全部、涙と一緒に流れていまえばいいと思った。
ゾロの腕の中で、泣きじゃくるたしぎは、
一国の姫ではなく、ただの一人の女の子だった。
薄いシャツごしに伝わるぬくもり。
胸にしがみつき、子供ように泣き声をあげるたしぎを
ゾロは、優しく抱きしめる。
「お嫁になんか、いきたくない・・・」
その言葉に、たしぎの精一杯の強がりを知る。
たしぎの背中に廻した腕に力を込めた。
あったかい。
涙で濡れたゾロのシャツは、ぬくもりをくれる。
たしぎは、頬をすり寄せ、目を閉じた。
泣きつかれた幼子が眠るように、次第に呼吸がゆっくりになる。
どうして、こんなに心地いいんだろう。
ずっと、このままでいたい。
何も聞かずに、何も言わずに
ロロノアは、こうやって一緒にいてくれる。
それだけでいい。
たしぎが泣きやんで、落ち着くのを待っていたゾロは、
そっと、たしぎの肩を抱き、身体を離す。
思い切り泣いて、少し放心したような顔。
そんなたしぎを、ゾロは愛しいと思った。
たしぎを見守る眼差しは
このうえもなく優しい。
「いいのか?」
え?!
たしぎの反応を待たずにゾロが顔を近づける。
触れる唇。
柔らかく、あたたかい。
たしぎの唇の輪郭をなぞるように
二度、三度と触れていく。
息をすることも忘れ、目を閉じることも忘れ、
視界に入るゾロの翡翠色の髪が揺れるのを眺めていた。
固まったまま、動かないたしぎを
ゾロは、もう一度ギュッと抱きしめた。
たしぎは、腕の中で、
さっきよりも熱いゾロの胸の鼓動を感じた。
〈続〉