気がつくと隣にゾロの顔があった。こんなに近くでみると、緊張してしまう。
ゾロは、眠っているようだった。
たしぎは、しばらくその顔を見つめていた。
身体を離そうと動くと、ゾロは
目をつぶったまま、たしぎを抱き寄せ、口づける。
どこへ行く。離れるな。そう言われた気がして可笑しくなる。
「起きてたんですか。」
シャワーを浴びてきます。
そう言って、起きようとするが、ゾロがつかまえて離さない。
あきらめて、そのまま身体を寄せ、ゾロの胸の傷をなでる。
ゾロが、目を開けて、問う。「痛かったか?」
顔が赤くなる。頷いて、
「わたし、わからなかったんです。自分が何されたか。
・・・何もなかったって、周りは言ってくれました。でも、触れられたときの感覚がぬぐいきれなくて。」
「よかったな。操は、守られていたじゃねえか。」
いつものようにニヤッと笑う。
「笑ってください。」
「バカ・・・怖かっただろ。」
愛おしむように、全身を抱きしめる。
じわっと、たしぎの目の前が滲んだ。
「これで、全部、オレのもんだからな。」
ゾロは、嬉しそうに笑う。
子供のような言い草に、たしぎは、それでもいいと思った。
******
はっとして、気がつくと、空が明るくなりかけていた。
ゾロの腕の中で、少しの間、眠ってしまったらしい。
たしぎは、ゾロを起こさぬように身体を離す。
乾いてはいないが、どうにか着られるようになった服を身につける。
ゾロが自分の刀と一緒に立て掛けておいてくれた時雨を腰に収める。
「ロロノア、もう行きますね。」
寝ているゾロの背中に声をかける。
眠っているのだろう、ゾロは動かない。
ゆっくりした息づかいを感じる。
たしぎは近づくと、ゾロの頬にそっと触れるような口づけをする。
そして、静かに部屋を出ていった。
たしぎの気配が遠ざかると、
ゾロは、ごろんと仰向けになって天井を見る。
たしぎが最後に触れた頬に手をやって、呟く。
「行っちまいやがった・・・」
顔を見れば、引き止めてしまいたくなるのは分かっていた。
また、いつか。こんな時がくるのだろうか。
不確定な未来を想うと、ジリッと胸が焼かれる。
あいつの全てを、この手につかんだと思ったら、
おまえで満たして欲しいと願う自分がいる。
のどの渇きにも似た渇望を、あいつが満たしてくれるのを、待つしかないのか。
オレの全てを、持ってかれちまったようだ。
焦がれた胸に手を置き、再び目をつぶった。
〈完〉
いや〜、よかった、よかったぁ。操は守られておりましたぁ。