たしぎがあんな状態になってから、
スモーカーは、ずっと考えていた。
あいつを支えていけるのは俺しかいないと。
思えば、ローグタウンで新兵として、
俺の下についた時から、必死に強くなろうとしてきた。
訓練時代のたしぎを俺は知らない。
当時の教官がどいつだったかは、わからないが、
女だからといって、随分不当に扱われたらしい。
後から、ヒナに聞いた話だ。
赴任の報告をしに来たたしぎの顔といったら、
ピンと張り詰め、痛々しい程、必死の形相だった。
俺は、他の部下達と全く変わらない扱いをした。
次第に、険しい顔つきが緩んできて、
とんでもねぇ、トロくささを発揮したのには驚いたもんだが。
「お前、そんなんで、よくここまでやってこれたなぁ。」
「ス、スモーカーさんまで、女だからと言うんですか!?」
「いや、人間として・・・その不器用さはどうなんだと思ってな。」
「ど、どういう意味ですかっ!?」
顔を真っ赤にして怒るたしぎを思い出して笑った。
スモーカーの葉巻が揺れる。
あいつの苦労は俺が一番よく知っている。
こうなった今、誰がなんと言おうと、
俺の側に置き、俺が守る。
スモーカーは、自分でコーヒーを淹れる為に立ち上がった。
******
スモーカーとたしぎはマリンフォードを訪れた。
スモーカーは任務、たしぎは療養がてら
海軍の病院でカウンセリングを受けることになった。
本部がG-5支部に移ったとはいえ、いまだにマリンフォードには多くの
重要な軍の設備も残っていた。
「まぁ、成果が出なくても、休暇だと思って
好きなことしてればいい。」
「はい・・・付き添ってもらって、申し訳ありません。」
「馬鹿、上官として、当たり前だ。」
こんなお前を、一人にしておけるか。
いつもは、海兵は軍の宿舎に泊まるのだが、
医師とも相談し、なるべく軍を意識させないように
一般人が泊まる普通のホテルにスモーカーは宿を取った。
「二週間も休んで、いいのでしょうか?」
「心配するな。お前は、自分のことだけ考えろ。
必要なら、いくらだって休めばいい。」
「・・・はい。」
「たまには、海兵だってことを忘れて、ほら、なんだ、
買い物とか、ス、スイーツとか、好きだろ。」
頭を掻きながら、あれこれと気遣うスモーカーに、
たしぎは、心が暖かくなった。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、
羽を伸ばしますね、スモーカーさん!」
たしぎの笑顔に少し安心して、スモーカーは自分の部屋へと戻っていく。
パタン。
部屋のドアを閉めたたしぎは、そのままドアに寄りかかる。
心配かけてるんだな、わたし。
気遣うスモーカーさんに、嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
しっかりしなくちゃ。
自分の頭をコツンと叩くと、ベッドに倒れこむように身を投げ出した。
枕に顔を埋める。
・・・どう、しっかりすればいいんだろう・・・
自分がどうしたいのかさえ、わからなくなる。
私はまた刀を握ることが出来るのだろうか?
握りたい?
刀を抜きたいに、決まってる。
・・・・わからない・・・
あぁ、まただ・・・
たしぎは、闇に落ちていくように、眠りに落ちた。
*****
軍の任務を離れての休暇は、それなりに楽しかった。
数日に一度、医師と話をすること以外は、全て好きなことをして過ごした。
新しい服を買い、美味しい料理を食べ、好きな音楽を聴く。
普段出来ないことばかりだ。
スモーカーとは、毎晩、夕食を共にした。
今日は何をしたかとか、たわいのない話に
耳を傾けてくれる。
たしぎの心の奥に、もしかしたら、
このままでいいのかもしれないという思いが
芽生え始めていた。
〈続〉