「お〜〜〜い、大丈夫か?」
夜中になっても戻らない二人を心配して、チョッパーが臭いをたどり
探しに来てくれた。
「おう、チョッパー、ここだ。」
「たしぎは、大丈夫か?」
「さっきは、ごめんなさい。」
チョッパーにむかって、ペコリと頭を下げる。
「いいって、気にすんな。それより、船に戻ろう。
みんな、心配してるぞ。」
「はい。」
チョッパーの後ろに続いて歩き出す。
「ほら、こっちでよかったんじゃねぇか。」
「いえ、ロロノアは、さっき向こう行ってましたよ。」
二人で文句を言い合いながら歩く様子に
チョッパーは、少しほっとした。
たしぎの泣きはらしただろう腫れぼったい瞼や、膝や手に着いた汚れを見て
心配になった。
二人の間にどんなやりとりがあったのかは、わからないが、
この様子なら大丈夫だ。チョッパーはそう判断した。
*****
船に戻ると、たしぎはすぐにナミとロビンの元にむかった。
食堂には、見張りのブルックを除いて麦わらの一味が、皆そろっていた。
「今日は、ごめんなさい。」
深く頭を下げる。
「上手くまいたから大丈夫よ。気づかれてないと思うわ。」
「私達も、すぐにあの場から離れたしね。」
ナミもロビンも何事もなかったように平然としている。
「でも、明日は、一応たしぎは船で待機ね。」
「はい。」
「情報、私達で集めてくるから、いい?」
たしぎの気持ちを気遣う。
「・・・ありがとう。」
厨房からサンジがお茶を持ってきた。
「さぁ、疲れたでしょう?ハーブティを召し上がれ。」
たしぎの前に置いた。
「あ、ありがとうございます。」
たしぎは、ソファに座ると、ほっと一息ついた。
すごくいい香り。
皆に迷惑をかけたというのに、誰も文句を言わない。
麦わらの一味の優しさに涙が出そうだった。
「それにしても・・・」
ナミが明るい声で尋ねる。
「ねぇ、スモーカーってあなたにとって、どういう人なの?」
「え。」
カップを持ったたしぎの手が止まった。
皆の視線がたしぎに集まる。
ウソップは、ちらりとゾロの顔を見ていた。
ゾロは、すぐに前を向き、関心がない素振りで自分のジョッキを傾けた。
「あの、えっと・・・スモーカーさんは・・・」
唇に指をあてて考えながら、一つ一つ言葉を選ぶたしぎ。
その瞳には、スモーカーの姿が浮かんでいるかのように。
「私、軍に入ってから、ずっと、トロくて、ほんと何やっても
失敗ばかりでした。」
たやすく想像はついた。ウソップが、うんうんと頷く。
「そんな私を、ずっと、スモーカーさんは使い続けてくれて
・・・育ててくれました。」
いっぱい迷惑かけた。怒鳴られもした。
手放せそうと思えば、簡単に異動させることができただろうに。
それでも、ずっと側にいることができた。
上司と部下という関係だけど・・・
それ以上の・・・
たしぎは、どんな言葉で表していいか、迷った。
「大事な人なのね。」
ロビンが、たしぎを見つめる。
こくりと頷くたしぎに、微かにゾロの眉間が険しくなった。
「・・・家族みたいな・・・」
スモーカーへの想いを確かめるかのように、きゅっと胸元で手を握り締める。
「血はつながってなくてもね。」
ナミがしみじみと答える。
たしぎには、麦わらの一味全員が、大きく頷いてくれたように感じた。
「わかるよ、仲間は家族みたいなもんだしな。」
ウソップが、そう言って立ち上がる。
「ほら、ルフィ、自分の部屋で寝ろよ。」
カウンターに突っ伏して寝ているルフィを揺り起こす。
「ん〜〜、肉〜〜〜」
半分寝ぼけているルフィを、引っ張って連れて行く。
それを機に、一人二人と自分の場所へと戻っていった。
静かになったキッチンで、たしぎはまだ香りが残るハーブティーを
味わった。
「サンジさん、ごちそうさまでした。」
厨房の奥で、片付けをしていたサンジが顔を出す。
「大丈夫だよ。ど〜んと俺達に任せておけば・・・ねっ!」
もう少し何か言いたそうなサンジは、
「おやすみ。」と優しく微笑んだ。
食堂を出ると、船内は静かだった。
各部屋の明かりも消え、皆、眠りについたのだろう。
ふとマストを見上げると、見張り台に影が動いた。
ロロノア・・・
食堂を出る際、ブルックと見張りを交代すると話してた声が聞こえた。
たしぎは、そっとマストを登り始めた。
<続>